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「――(はな)ちゃん、バイバイ」  手を振って友人と別れる。夏休みに入って3日目。華の家から出た私は家路に就く。  夏休みの宿題もせず、流行りのゲームをして遊んでいた。コントローラーを体に付けて、色々なスポーツや運動が出来ると言ったあれ。対戦でテニスをしていたのだが、あまりに白熱して腕も足も筋肉痛のような痛さがあった。  めちゃくちゃ楽しかったけど、何か足ぷるぷるするわ……。  やり過ぎたストレッチの後みたいに、足に力が入らない。どこか足取りもふわふわしていて、何度か躓きそうになった。  走ったら間違いなく転けそうやけど、家に帰るだけやし。  走る必要はないな。  だから大丈夫。と、夕焼けに染まる道をクロックスで歩いていた。ふとおもむろに、船乗り場の方に目を向けると、港の防波堤の先にひとりの男性が立っているのが見えた。  真夏にも関わらず長袖の白のシャツを着ている。ぼんやり立ち、落とす目線の先は海。如何にもそれを彷彿させる出で立ちに、気付けば走り出していた。 「死んだらあかーん!」 「は?」  男性が訝しげに振り返る。目前まで迫った直後、懸念していたことが起こり、止めるどころか押し飛ばして共に海に落ちていった。  ドボーン! 「バカか! 本当に死ぬだろ!」 「ごめん。躓いてしもた」  海から顔を出して、とにかくふたり防波堤に上がる。全身ずぶ濡れで水を滴らせながらも、男性に迫った。 「でも死んだらあかん! どんなにしんどいことあっても、自殺したって苦しいだけやで? 魂が苦しむから死んだ後も苦しいままなんやって!」 「それはお前の早とちりだよ!」 「え? じゃあ何でぼーっとしてたん!?」 「海の色が綺麗だから、どうやったらこんな色出せるかなって、見てただけだよ!」 「色?」 「お前に関係ない」  突っぱねて、はぁとため息を出す。濡れた前髪を掻き上げて、男性は去って行った。  ……何やねん。あいつ。  めっちゃ態度悪いやん。  そりゃ私が悪いんやけどさと、ぶつぶつ文句を言いながら島の人とちゃうなと思う。  目に掛かる程の長い黒髪。掻き上げた時に見えた、左目の側にあったほくろ。背は高いけどひょろっと痩せ型で、多分歳上。  初めて見る顔やし、観光客なんかな?  遠くになった背中を見つめる。  これが京介との出会いだった。
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