8/10
前へ
/36ページ
次へ
「何これ、何これ! めっちゃ上手やん! 女の子と男の子浴衣着て、めっちゃ可愛いし!」  詰め寄る私に圧倒され、京介はただぱちくりと目を丸くさせる。 「今白黒やけど、これに色付いたらもっと綺麗なんやろなぁ」 「ホンマ。あんたが描いたお粗末なもんとは、比べもんにならんな」  同じく覗き込んでいた母親が感想を言う。でも正論過ぎるからか、興奮しているからか全然ムッともならなかった。純粋に絵の凄さに感動していた。 「志帆ちゃんには悪いけど、もう日にちもないみたいやし、京介が描いたってくれへんか?」 「別に……いいけど。でも時間がないんだったら、簡単な色付けになると思ってて」  おばあちゃんに言われると断れない。それは京介も同じらしく、渋く受け入れたと言った感じだった。 「わー! めっちゃ楽しみ! 出来たら見せてな」  そんな中、怒っていたのもすっかり忘れてはしゃぐ。ある意味宮司さんよりも、私が一番完成を楽しみにしていたと思う。  こうしてポスターの絵は京介が描くことになり、4日目に完成したらしいでと母親から聞いた。夕飯を食べた後だと言うのに敷島家に自転車を走らせ、突撃的に乗り込んで行った。 「おばあちゃーん! 志帆やで~。上がるでー」  はぁいと奥から声がした。同時にクロックスを脱いで家に上がる。居間に入ると夕食の途中だったらしく、京介が一瞬は? と眉をひそめた。 「ポスターの絵見に来たで!」 「こんな夜遅くに訪ねてくるなんて、常識ない奴だな」 「あぁ?」  癇に障る言い方に、つい口調が荒くなる。それを見たおばあちゃんがこらと言った。 「志帆ちゃんが一番楽しみにしてくれとったんやで。わざわざ来てくれたんやから見せたり」  京介ははぁとため息を吐いて立ち上がった。客間から1枚の紙を持って来て、何も言わず渡される。その態度に何やねんと思うものの、完成された絵を見て怒りは吹っ飛んだ。  第一声は歓声。  ではなく、紙に広がる絵の世界に惹き込まれ息を呑んだ。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加