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 夜空を埋め尽くす色取り取りの花火。それを見上げる小さな男の子と女の子。幻想的に鳥居と、泳ぐ金魚の絵が描かれていて、その中に1匹だけ蛙が混じっていた。  目が釘付けになる。  意識を持っていかれる。  心が奪われる。  わいわいと賑わう境内。子供の声やいらっしゃいの声。打ち上げられる花火の音が聞こえてくる。絵の中に入り込むような感覚は初めてだった。  ペンでの下描きとは比べ物にならない。もちろんそれでも凄いと思ったけど、圧倒的な美麗さにしばらく言葉が出てこなかった。 「……めちゃくちゃ凄いな。凄いとしか出てこーへん」 「そりゃお前のと比べたらな」  当然だろと言う感じで、京介は残りの夕飯を食べ始める。 「うち、絵見るのは好きやけど。今までこんな感動したことない。凄いわ」 「お褒めに預かりどーも」  やっつけ返事をするので向かいに座り、ずいと体を乗り出し近付いた。 「お世辞とかちゃうよ。ホンマに凄いと思ってる。下描きの時も凄いなと思たけど、完成したこの絵はそれ以上。一目惚れしたわ」  目を見て真面目に本心を伝えると、初めて京介の無愛想の表情が変わった。一瞬戸惑って、えとと言葉を詰まらせる。 「うち、京介の描く絵好き。ファンになったわ」  にっこり笑って伝えると、目を逸らされる。それでも小さな声でありがとうと聞こえた。 「なぁなぁ、これもらってもええ? あ、宮司さんに渡さなあかんか」 「いや、いいよ。絵のデータはパソコンの中にあるから。宮司さんにはそっちで渡そうと思ってるし」 「ホンマに? じゃあええの?」 「あぁ」 「やったー!」  わーいと手を上げ喜んで、んふふとはにかみ絵を見る。どれだけ見ても飽きなくて、見れば見る程惹かれていって。  こんな絵描けんの凄いな……。  素直に尊敬した。世の中にはこんな素敵な絵を描く人がいるんだと。  この島にいる間、出来るならもっと他の絵も見せてもらいたいなと思った。
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