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キャンプでの夕食は、野菜嫌いの次郎の主張が通り、ほぼ肉とソーセージばかりのバーベキューだった。それでも過去一旨いバーベキューだったと思う。焼きながら食いながら、いかにも男子高校生らしい馬鹿話で盛り上がった。近くにいるはずの彼女の存在もしばし忘れるほどに。
バーベキューを終え、残っていた炭を火種に焚き火を熾した。澄み切った空気を包み込む空には雲一つなく、月もなく、星の光だけが装飾という夜だった。そんな環境下で火を囲むと、さすがに大声で燥ぐ雰囲気ではなくなる。
ふと会話が途切れたタイミングを見計らったかのように、次郎が何やらカードを取り出した。
「ゲームを用意して来たんだ。カードに書かれているお題について正直に答える。それだけのゲームなんだけどさ」
「龍平は初めてだろうけど、うちの部で流行ったんだよ。言ってみれば告白ゲームだ。言葉を濁さず、はっきりと正直に白状するのがミソだ。嘘や誤魔化しを言い始めると、このゲームは途端に面白くなくなるからな」
克哉がそう付け加えた。
何枚かカードを見せてもらうと『今までで一番恥ずかしかった事』とか『今までにやらかした一番の悪事』などと書かれている。
「全員が言うのか?」
僕が問うと、次郎はもう一組、別のカードを広げて見せた。
「それはこっちのカードを引くんだ。これで誰が告白するかを決める」
そちらのカードには僕たち三人の名前が書かれていた。一人の名前だけが書かれたもの、三人のうち二人の名前が書かれたもの、三人全員の名前が書かれたものがあり、全てのパターンが網羅された計七枚のカードだった。
お題のカードを克哉が切って、テーブルの中央に伏せて重ねた。名前の書かれたカードは次郎の手元にあった。
「試しに一回やってみよう。龍平、カードを捲ってくれ」
次郎に言われて僕が一番上のカードを捲り、山の横に開いた。
『最後におねしょをしたのは何歳の時か』それがお題だった。
次に、次郎がババ抜きの要領で手に広げたカードの中から、克哉が一枚を引いた。克哉自身の名前だけが書かれたカードだった。
「え、俺かよぉ」
克哉は少し渋った後で「小学五年の時だ」と白状した。
「お前、そんな年までしてたのかよ」
次郎に揶揄われた克哉は「十歳でも5%がおねしょをするって統計があるらしいからな。俺が特別遅いわけじゃないんだ」とすかさず弁明していた。こういう時の為に調べていたらしい。
その後、『初恋の相手』というお題で僕だけが当たり「同じ幼稚園の小百合ちゃん」と打ち明けたことは憶えている。けれど他にどんなカードが出て誰が何を白状させられたのか、記憶は曖昧だ。それはきっとこのゲーム最後の一枚の印象が、あまりにも強烈だったせいだ。
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