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『好きな女の子の名前』
最後のカードは、それがお題だった。
まずい。僕が当たったら瀬戸彩月の名前を言わなければいけなくなる。同じキャンプ場に彼女がいることを知らなければ、まだ言い易かったかもしれない。しかし、すぐ近くに当人がいると思うだけで、その名前を口にすることのハードルは格段に高くなっていた。
名前のカードは克哉が引く番だった。
頼むから僕のカードは引かないでくれ。次郎がニヤニヤしながら掲げる七枚のカードを、祈りながら見つめていた。
「どれにしようかなぁ」克哉は少し勿体ぶってから、「よし、これだ」と一番端のカードを引いてテーブルの上に置いた。
そこには『克哉 次郎 龍平』と三人の名前が記されていた。
少しだけ感情が混乱した。
この時の三人には誰も付き合っている相手などいないはずだった。彼女が出来たら隠さず打ち明けようなんて取り決めはなかったけれど、日頃の様子を見ていれば分かることだ。
とりあえず僕一人じゃなかったのは良かった。けれど、彼女の名前を言わなければいけないことに違いはない。克哉と次郎が知らない女の子の名前ならば抵抗は少ないだろう。けれど、瀬戸彩月は違う。二人と同じ学校で、しかも今現在同じキャンプ場にいるという。そんな彼女の名前を告げたりしたら、二人はきっと物凄い勢いで揶揄ってくるだろう。適当な名前で誤魔化すか。いや。正直に包み隠さず話すのがこのゲームの肝だと釘を刺された——。どうしたものか。
そんなことを一人悶々と、かなり真剣に心配したのだけれど、それは実に意外な形で杞憂に終わった。何故なら、僕よりも先に克哉と次郎の二人が口を揃えて瀬戸彩月の名前を挙げたからだ。
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