キャンプ

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「なぁ、せっかくこのキャンプ場に彼女がいるんだからさ、今夜このままの勢いで告白しに行かないか?」  (あき)れた話だ。耳を疑った。冗談だと思った。けれど、意外なことに、克哉もその提案に乗ったのだ。 「いいじゃないか。せっかく高校時代の思い出作りに、こうやって一緒にキャンプに来たんだしさ。そこに彼女まで来てるなんて、奇跡みたいな偶然だぞ。三人で順番に告白して、もし誰か一人がOKを貰えても、あとの二人は(うら)みっこなしだ。もし万が一、全員が振られたとしたら、俺たちの友情は未来永劫不滅のものになる」  克哉は既にやる気満々だった。 「いやいや。待てよ、そんな急に言われても……」  僕一人が尻込みをしていた。 「急じゃないだろ、龍平。お前、さっき中一の時からずっと好きだったって言ってたじゃないか。もう五年目だぞ。遅すぎるくらいだ」 「そうだよ。俺が瀬戸を好きになったのは中三の時だし、次郎は高校に入ってからだ。一番最初に好きになったのは龍平、お前じゃないか」  そういう問題じゃないとは思ったが、二人によって(あらが)えない流れが出来つつあった。  克哉が真剣な顔で言った。 「まあ確かにこんなこと、強制してやることじゃないかもしれない。でもな、じゃあ龍平、お前だけは告白しないとして、もし俺と次郎だけが告白をして、その結果どちらかが彼女とつき合うことになっても、それでいいのかよ」 「良いも悪いもないよ。その場合は仮に僕が告白してもふられるってことなんだから、結果は同じだろ」 「本当にそうか? 四年以上思い続けて、告白もしないまま好きな女の子を友達に取られて、お前、本当にそれでいいのか?」 「俺なら嫌だな。どうせ想いが実らないとしても、はっきりふられてすっきりしたいよ」  次郎が言ったその言葉は、ずっと僕の喉に刺さってチクチクと痛んでいた小骨の思いだった。ずるずると片想いを続けて、彼女のことを遠くから視線で探し続けた日々——。 「俺は告白するぞ」  次郎があらためて宣言した。 「俺もだ」    克哉も続いた。   僕の腹も決まっていた。 「僕も、やるよ」  二人の笑顔を焚き火の炎が揺らしていた。僕には笑顔なんかつくる余裕はなかったから、引きつった顔が揺れていたんだろうと思う。  告白の順番はさっきのカードを使って決めることになった。一人ずつの名前が書かれたカードを三人で切って、名前が出た順に彼女に告白をする——。  三枚のカードをまず次郎が切り、それを受け取った僕が更に切って克哉に渡し、最後に克哉も切ってテーブルの上に重ねて伏せた。 「俺が捲っていいか」  克哉が言い、僕と次郎は頷いた。  克哉はカードに伸ばした手を途中で止めて、僕たちの顔を見た。 「恨みっこなしだからな」  また僕と次郎は頷いた。克哉も頷いた。  そして、克哉が捲った一枚目のカード——そこに書かれていたのは、僕の名前だった。
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