エピローグ

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エピローグ

「あれから何年?」  焚き火の炎が、今は彩月の笑顔を揺らしている。きっと僕の顔も揺れているのだろう。 「さあ、数えたこともない」  嘘だ。正しくは数えるまでもない、だ。  高二の夏のキャンプ——あれからちょうど十年目の夏。あの時と同じキャンプ場に僕たちはいる。 「嘘ばっかり」  この十年、順風満帆な時ばかりではなかったけれど、僕たちはこの春、晴れて夫婦になった。 「二人も一緒に来られたら良かったのにね」 「二人とも仕事が忙しいみたいだから、仕方ないよ」 「分かってる。でも、あの二人のおかげでしょ。今、わたしたちがこうしていられるのは」 「もういいよ、その話は」  これまで幾度となく二人でも語り、あの二人からも恩着せがましく聞かされた。披露宴や二次会でもその話で持ち切りだった。もう十分だ。 「そんなこと言っちゃバチが当たるよ。次郎君も克哉君も、二人ともわたしのことなんか好きでも何でもなかったのに、わたしのことを好きなふりをして、あなたの背中を押してくれたんだよ」  仕組まれたキャンプ——それは偶然、彩月がキャンプに行くのを知った克哉の発案だったそうだ。  お前さぁ、試合のたびに瀬戸のことばっかり探してたじゃないか。バレバレなんだよ——克哉と次郎、二人からそんなふうに言われて、大いに笑われた。 「あんな回りくどいことしなくても、ストレートに言ってくれればいいじゃないか」 「それじゃあなた、告白なんて一生できなかったくせに」  僕は言葉に詰まる。 「ダチョウ倶楽部作戦——笑っちゃうわよね。そんなのにまんまと乗せられちゃうんだもん。あなたって本当に素直」 「るせえ」  彼女の顔も見れず、そう言い返すのが精いっぱいだ。 「でもね……」  彩月はそこで言葉を切った。  しばらく待っても何も言わないので、顔を見た。  目が合った。 「あなたのそういうところが好きよ……。あ、赤くなった」  いい歳をして、妻になった女からの告白に照れている場合ではない。断じて照れてなどいない。もしもそう見えたのだとしたら、それはきっと焚き火の炎のせいに違いない。 「十年目の夏」 終わり
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