逃がさないわよ、マイダーリン!

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 *** 「お前何してんの?なんか変な電話でも来た?」 「あー」  同僚が不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる。迷った末、俺は正直に答えることにした。 「実は、メリーさんから電話来てさあ」 「は?メリーさんって、あのメリーさん?都市伝説の?」 「うん。十年前から電話かかってきてんだけど」 「十年前!?」  同僚が目を見開く。そりゃそうだろう、普通メリーさんといったら、電話をかけてくるたびにターゲットに近づいていき、最後は標的の後ろに立って襲ってくるという怪異のはずである。  それに十年も追われてる男なんて、そうそういないはずだ。しかし、それには理由があって。 「いや、その。俺を追いかけてきてるメリーさん、すげえ方向音痴みたいで」  現在、俺は友人と登山中。夏の富士山をえっちらおっちらと登り始めたところでして。 「……なんか、勘違いしてドイツの会社のオフィスに突撃したらしいんだけど」 『私、メリーさん。今、ベルリンにあるあなたの会社の前にいるの』  さっき、かかってきた電話がこれ。  いや、なんでドイツに行ったんだ彼女。俺の会社がドイツにあったことなんかないし、ていうか現在休暇中で毎日登山してるから、リアルの会社にも出勤することがないんだが。  この間は、自宅の前にいるの!と言いながら待てどくらせど家に突撃してこなかった。――絶対、違う家にお邪魔していたものと思われる。位置情報ガバガバすぎでは。 ――高速移動できるのに、さすがに十年は気の毒すぎでは。  そろそろグーグルマップを使うようにおすすめしてあげるべきか。俺は真剣に悩み始めたのだった。
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