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The squirrel
パタンと本を閉じて、ソファーの背もたれに体を預ける。
目を閉じて、まぶたの裏に浮かぶのは、18歳まで暮らした実家の部屋だ。
大学入学と同時に上京して、そのまま東京で就職した。
仕事が忙しくて、もうしばらく帰っていない。
今閉じた本は、物心ついたときにはもうすでに家の中にあって、何度も何度も読み返してきた絵本。
共働きの両親。ひとりっ子。子ども心にふと寂しさを感じたとき、この本を手に取ってきた。
だからと言って、社会人になって5年以上が経つ男がこんな絵本を読んでいるなんて、自分でもなかなかイタイと思う。
それでも読むことをやめられないのは、この絵本を閉じて、目を閉じて。そして3回深呼吸をすると、時化た海のようだった心が、不思議と静まっていくからだった。
「…ふぅ、」
3回目の息を吐いて、まだ大丈夫、さぁ明日も仕事を頑張ろう。そう、目を開けた、そのとき。
「…えっ…」
目に前には、おそらくハタチくらいだろうか?見ず知らずの男の子がいた。
「あ!こんばんは!」
「…こんばんは…?」
これは、夢?目を閉じたまま眠ってしまったのか。それにしてはずいぶんとくっきりとした輪郭をしていて、そして、会話ができている。
「あの、えっと、君は、誰?」
会話ができるならしてみようと思ってしまったのは、これが夢だから?それとも仕事で疲れ切って思考力が鈍っているからだろうか。
俺の問いかけに、目の前の男の子は「えっと…、」と可愛らしく首を傾げた。そして何も答えることなく、ただニコニコと笑っている。
彼の笑顔を見ているうちに、だんだんと頭の中がクリアになっていく。これは、夢ではない。
そう確信した瞬間、冷たい水を浴びせられたように、ぶるっと体が震えた。
まさか、強盗…?玄関の鍵をかけ忘れただろうか。
でも、強盗にしては、なんと言うか…。目の前にいる彼にあまりにも緊張感がない。そして、おそらく自分にも。
「あの…」
「え、あ、うん…?」
目の前にいる彼は、ラグの上できちんと正座をしていて、そしてぺこりと頭を下げた。
「今日からお世話になります」
そしてまた、顔を上げてにこりと笑う。…いや、今何か、とんでもないことを言われたような…。
「…お世話に、って?」
「今日からここで一緒に暮らします!」
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