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家を飛び出したはいいもの、どこを探せばいいのかなんて分からない。
凪の行きそうなところ?そんなの知らない。
俺は、凪のことを何も知らない。
「…。」
でもだからって、諦めるわけにはいかないんだ。
「もしも〜し?」
「大吾、今、凪と一緒にいる?」
「…え、凪?いないけど…」
のんびりとしていた大吾の声が、すっと緊張感の含んだものに変わる。あんな手紙残して、さすがに大吾のところにはいないか…。
「凪、いないの?」
「…うん。でも、手紙が、」
「手紙?」
「おうちに、帰るって」
おうち?と、大吾が繰り返す。
「凪のおうちって、どこ…?」
「…分かんない」
おうちどころか、俺は凪の年齢も、家族がいるのかも、そして本当の名前も知らない。
流れる沈黙の中、大吾がふぅ、と小さく息を吐いた。
「直。凪は本当に、自分の家に帰ったのかもしれないよ?」
「…え?」
「何か事情があって、少しの間家出してた。でもやっと戻れるようになって、凪は自分の家に帰った。…あくまで一般的にね?普通に考えて、帰る家がないとか、そんなことってそうそうないと思う」
「それは…、」
大吾の言うことはもっともだと思う。
だから大吾の言う通りだとしたら、こんなふうに探されるなんて、凪にとってはただ迷惑なだけかもしれない。…だけど、
「…でも直は、そんなの納得いかないんだよね?」
「俺も探す」
「大吾…?」
「でも、凪には帰る家があった、その可能性が大きいとは思う。だからもしも凪を見つけたとして、凪が凪のいるべき場所で暮らすことを選んだなら、無理に連れ戻そうとしたり、話をしようとしないこと。…それを約束出来る?それがきっと、凪のためだから」
いつのまに、大吾はこんなに大人になったんだろう。ずっとずっと俺が面倒を見てやらなきゃいけない、弟のような存在だと思っていたのに。
「凪が行きそうなところ、どこかないの?」
「それが全然、思い浮かばなくて。…でも、たぶん凪お金持ってないし、家出てからあんまり時間経ってないから。そう遠くには行ってないと思う」
「…そっか、分かった」
何か分かったらすぐ連絡すると約束をして電話を切った。そしてもう一度、夜の街を駆け出す。
『凪が凪のいるべき場所で暮らすことを選んだなら、無理に連れ戻そうとしたり、話をしようとしないこと。…それを約束出来る?それがきっと、凪のためだから』
先程の大吾の言葉を頭の中で反芻する。
ごめん、大吾。その約束は、守れないかもしれない。
「…はぁ…っ」
あてもなく夜の街を駆け回り、気付けば明日がやって来ていた。
もしかしたらどちらかの家にいるかもしれないと、大吾と互いの家に帰るよう連絡を取り合い戻ってみたけど、やっぱりそこに凪の姿はない。
「…どこ行ったんだよ…」
時計を見れば午前2時。
こんな時間まで、凪はどこかを彷徨っている…?でもお金がなければホテルに泊まることもできないし。まさか本当に自分の家に帰ったんだろうか。
ぐったりとソファーに倒れ込み、ほんの少しだけと目を閉じた。
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