宝物の行方

2/3
前へ
/40ページ
次へ
家を飛び出したはいいもの、どこを探せばいいのかなんて分からない。 凪の行きそうなところ?そんなの知らない。 俺は、凪のことを何も知らない。 「…。」 でもだからって、諦めるわけにはいかないんだ。 「もしも〜し?」 「大吾、今、凪と一緒にいる?」 「…え、凪?いないけど…」 のんびりとしていた大吾の声が、すっと緊張感の含んだものに変わる。あんな手紙残して、さすがに大吾のところにはいないか…。 「凪、いないの?」 「…うん。でも、手紙が、」 「手紙?」 「おうちに、帰るって」 おうち?と、大吾が繰り返す。 「凪のおうちって、どこ…?」 「…分かんない」 おうちどころか、俺は凪の年齢も、家族がいるのかも、そして本当の名前も知らない。 流れる沈黙の中、大吾がふぅ、と小さく息を吐いた。 「直。凪は本当に、自分の家に帰ったのかもしれないよ?」 「…え?」 「何か事情があって、少しの間家出してた。でもやっと戻れるようになって、凪は自分の家に帰った。…あくまで一般的にね?普通に考えて、帰る家がないとか、そんなことってそうそうないと思う」 「それは…、」 大吾の言うことはもっともだと思う。 だから大吾の言う通りだとしたら、こんなふうに探されるなんて、凪にとってはただ迷惑なだけかもしれない。…だけど、 「…でも直は、そんなの納得いかないんだよね?」 「俺も探す」 「大吾…?」 「でも、凪には帰る家があった、その可能性が大きいとは思う。だからもしも凪を見つけたとして、凪が凪のいるべき場所で暮らすことを選んだなら、無理に連れ戻そうとしたり、話をしようとしないこと。…それを約束出来る?それがきっと、凪のためだから」 いつのまに、大吾はこんなに大人になったんだろう。ずっとずっと俺が面倒を見てやらなきゃいけない、弟のような存在だと思っていたのに。 「凪が行きそうなところ、どこかないの?」 「それが全然、思い浮かばなくて。…でも、たぶん凪お金持ってないし、家出てからあんまり時間経ってないから。そう遠くには行ってないと思う」 「…そっか、分かった」 何か分かったらすぐ連絡すると約束をして電話を切った。そしてもう一度、夜の街を駆け出す。 『凪が凪のいるべき場所で暮らすことを選んだなら、無理に連れ戻そうとしたり、話をしようとしないこと。…それを約束出来る?それがきっと、凪のためだから』 先程の大吾の言葉を頭の中で反芻する。 ごめん、大吾。その約束は、守れないかもしれない。 「…はぁ…っ」 あてもなく夜の街を駆け回り、気付けば明日がやって来ていた。 もしかしたらどちらかの家にいるかもしれないと、大吾と互いの家に帰るよう連絡を取り合い戻ってみたけど、やっぱりそこに凪の姿はない。 「…どこ行ったんだよ…」 時計を見れば午前2時。 こんな時間まで、凪はどこかを彷徨っている…?でもお金がなければホテルに泊まることもできないし。まさか本当に自分の家に帰ったんだろうか。 ぐったりとソファーに倒れ込み、ほんの少しだけと目を閉じた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加