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ヴー…と小さな振動で目を覚ます。
カーテンの隙間から覗く空が明るい。
…朝…?
「…凪っ、」
慌ててポケットに突っ込んだままのスマホを手に取ると、時刻は午前9時を過ぎたところ。そして大吾からの着信。
「も、もしもしっ?」
「あ、直?今さ、真之介くんから連絡があって!」
「…真之介くん?」
「凪が今朝、真之介くんのお店に来たんだって!」
「…え…?」
「開店準備してたら凪が来て、もうお店来れないって、お仕事させてくれたのにごめんなさいって…。凪、近くにいたんだよ…っ」
必死な大吾の声に体が動かされる。
服は昨日のまま、髪もボサボサ。
だけどそんなことを気にしている余裕もなく、もう一度家を飛び出した。
さっきまでの暗闇とは打って変わって、眩しい朝の光。
大吾が言うには、今朝8時頃に凪が真之介くんのお店に行った。凪は最初断ったらしいけど、凪が頑張って働いた分だからとバイト代を渡してくれて。すぐに別れたけど、なんとなくいつもの元気がないのが気になって、大吾のところに連絡をくれたようだ。
多少お金があれば、電車に乗ったりする可能性もあるけど。でもとりあえず真之介くんのお店の周辺を探すつもりだ。
「…いないのかよ…」
たまたま見つけた公園のベンチに座り、がっくりと項垂れる。
むやみやたらに走り回ったところで、そう簡単に見つかるとは思っていないけど、でも他にどう探せばいいのか分からない。
もうどこか遠くへ行ってしまったんだろうか…。
ただじぃっと地面を見つめていると、視界の中に、色褪せたボロボロの靴が入ってきた。
「お兄さん、大丈夫?」
…え?と顔を上げると、そこにいるのは、恐らくホームレス、のように見える、男の人。俺と同い年くらいか、もしかしたらもっと若いのかもしれない。
その人は「これ、半分食べる?」と、片手に持っていたコンビニの袋をかかげた。
「え、あの、いや…」
「人間、持ちつ持たれつだよ?」
言いながら、その人は俺の隣に腰を下ろして、袋の中に入っていたものを取り出した。それは、コンビニで売られているオムライス。
「…オムライス」
「オムライス好き?俺そんなに好きじゃないんだけどさ、もらいものだから、ありがたく頂こうと思って」
「…もらった?…もらったって?誰にっ?」
まさかこんなことあるわけないだろうと思いながらも、気持ちとは裏腹に心臓がばくばくと音を立てる。
つい問い詰めるような口調になってしまい、その人は目を丸くしたけど、「誰って…知らない子だよ。何にも持たずにその辺で寝ようとしてたから、昨日うちに泊めたんだ。うちって言っても、段ボールだけどな」と笑った。
「朝早くに出てったと思ったら戻ってきたんだ。これお返しって」
"お返し"
…凪だ。絶対に。
真之介くんにもらったバイト代で、きっとこのオムライスを買ったんだ。
「すごく変わった子でさ。オムライス知ってる?すっごくおいしいんだよって」
「その子、なにか…、名前は言ってましたか?」
「いや、名前は聞いてないけど…」
「お仕事してお金もらえたんだって嬉しそうだった。…でも、お返ししたい人がいたけど、できなかったって、寂しそうにも見えたな…」
「あの、その子、今どこに…」
「さぁ…。でもちゃんとおうちを見つけなきゃって言ってたな。じゃないと、またその人のところに帰っちゃいそうだからって」
その人の言葉に、ぐっと唇を噛み締めた。こうしないと、なぜだか泣いてしまいそうだったから。
なんだよ、それ。それなら帰ってくればいいだろ。俺のところに今すぐに帰ってくればいい。
「見つけてやんなよ。まだそんなに遠くへ行ってないんじゃないか?」
「…え…?」
「これだけ話してりゃ分かるって。そのお返ししたかった人って、お兄さんだろ?」
オムライスを頬張りながら、生きてりゃこんなこともあるんだなぁと、その人は楽しそうだ。
「その子に会えたら伝えてよ。オムライスありがとう。君のおかげで好きになったよって」
宝物の行方
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次の更新で完結の予定です。
勢いで書き始めてしまったので、かなりふわふわとしたお話になってしまいましたが最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。
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