34人が本棚に入れています
本棚に追加
Home Sweet Home!
「さっきの子、大丈夫かな…。川に飛び込んだりしないよね?」
「さすがにないでしょ。ただ黄昏てただけじゃない?」
ふと耳に、すれ違った女性たちの声が入ってくる。…今、なんて?
「あ、あの!すみません!」
通り過ぎた女性を呼び止め、思わず腕を掴む。「え…っなに…」と明らかに怯えているけど、気にしている場合ではない。
「今の話、あの、教えてほしくて」
「え?」
「あの、川に、誰か…?」
女性たちは互いに目を見合わせ、視線だけで「この人やばい人…?」と言い合っているようだ。
だけどこちらの必死さが伝わったのか、訝しみながらも先ほど見たという男の子の話をしてくれた。
「…その、河川敷に、なんか男の子がいて」
「男の子っていくつくらいの?」
「たぶん、はたち…?くらいかなぁ」
「それで、その子が?」
「いや、なんか、橋の下に座ってて…」
「は、橋の下…?」
「ひとりでぼんやりしてたから…。だから、なんか大丈夫かなって。気になって」
河川敷。橋の下。
何で、そんなところに…?やっぱり帰る家なんてないんじゃないのか?
もちろんその男の子が凪だと決まったわけじゃないけど、とにかく今はそこに行くしかない。
女性たちに「ありがとうございます」と頭を下げ、はやる気持ちを抑えて凪がいるであろう河川敷に向かった。
穏やかに流れる大きな川。だけど綺麗に整備されているわけでなはなく、人気はない。橋の下、橋の下…。そう心の中で唱えながら近づいていく。
「…凪…?」
橋の下に人がいる。…でも、倒れてる…?
「…凪…っ」
急いで駆け寄ると、橋の下には小さく丸まって倒れている人の姿が。そしてその人は、間違いなく凪で。
「凪!…凪!」
横になっていた凪を腕に抱き体を揺すると、「んぅ〜…」と声を漏らした凪の目が薄く開かれた。
「凪!」
「…ん…なお…?」
「凪!大丈夫!?どうした!?何があった!?」
「…え…?」
まだぼんやりとした様子の凪は、ゆっくりと体を起こすと、きょろきょろと辺りを見渡した。
「…あれ、寝てた…」
「…寝てた…?」
俺の目を見て、こくんと頷く凪。寝てた、寝てた…。
「…わっ、直、どうしたの…?」
耳元で凪の慌てた声がする。
「こんなところで寝るなよ」って、本当はそう言ってやりたかったのに。考えるよりも先に凪の背中に腕が回って、その体をぎゅうっと抱きしめていた。
「直、泣いてるの?」
「…泣いてない」
「どうして、泣いてるの?」
「…。」
どうしてって、そんなの決まってる。
凪がいなくなったから。見つからないかもしれないと思いながら、凪をずっと探していたから。そしてやっと、凪を見つけられたから。
だから俺は、泣いているんだ。
そっと体を離し、凪と視線を合わせる。くりくりとした、小動物のようなまん丸の瞳。
凪が何者かなんて、もうそんなのどうだっていい。そもそも最初から、俺はそんなことさほど気にしていなかったんだ。
「あの手紙、どういうこと?」
「…手紙…?」
「あんな手紙残して、勝手にいなくなるなよ」
最初のコメントを投稿しよう!