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槇野は寝起きはいい方らしい。
少々ぼんやりとしている様子だったが、高崎が見知っている『何時もの槇野』と大して変わらない。
しかし、それなりには眠いようだった。
目元を擦りこすり、つぶやく。
「もう少し寝よう。あ・・・・・・」
小さくあくびをした後で槇野が真顔になり、絶句する。
「何?」
「聞こえない?遠くで雷が鳴ってる」
結んだ唇の真ん中に人差し指を当てた槇野に素直に従い、高崎もせいぜい耳をすませる。
微かに低く鳴り聞こえる音は、槇野が言う通り確かに雷だった。
「本当だ」
身を乗り出し、自分の目を覗き込んでくる高崎へと槇野が唱えてみせる。
「クワバラ、クワバラ」
「え?」
驚き、目を円くする高崎へと槇野は言った。
「雷除けのおまじない。これからは俺が何度でもコウタに言ってやる」
「トモヤ・・・・・・」
感極まった高崎は、極めて自然に槇野へと抱きついていた。
槇野も自分も裸のままだったが、恥ずかしいとはまるで思わなかった。
「これでもう、怖くないよな?」
高崎が深く深くうなずいた。
「もう子供じゃないだし!」といった類の憎まれ口を、槇野に叩く気は全く思い浮かばなかった。
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