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 槇野の次の言葉の「コウタ」が出て来る前に、高崎はその口を唇を自分のですっかりと塞いでしまっていた。  多分おそらくは、いや、十中八九自分の名前を呼んでくれるのだと分かっていた。 ――それでも、止められなかった。  高崎が腹筋の限りを用いて上体を起こし、自分の後頭部を抱え口付けている間中、槇野はただ応じていた。 「されているから返しているだけ」な感がありありと、高崎にも伝わってきた。  槇野が自分がしたい様にさせてくれたというのに、唇を離してすかさず高崎は別の意味で槇野に「嚙みついた」 「(ズル)いよ‼槇野は狡い!」  言葉は先ほどとまるで同じなのに、勢いがまるっきり違っていた。 唇が離れたばかりの、お互いの鼻の頭がくっつきそうな至近距離でそれはそれは激しく言い募る。  そんな高崎の、ほとんど八つ当たり的な剣幕にも槇野は少しも動じなかった。 伸ばした右手のひらで、高崎の頬を包み込んだ。 「――そうだな。コウタの言う通りだ。俺はズルいな」 「・・・・・・」  こちら(槇野)は、先ほどと一言一句違わぬ正確さだった。 言われた高崎にもハッキリと分かった。  そこで終われば、先ほどと全く同じやり取りを繰り返しただけで済んだ。 しかし、そうではなかった。    
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