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高崎の『駆けつけ一杯のビール』が運ばれてきて、槇野が改めてぐい吞みを掲げた。
「お疲れ様」
「槇野もお疲れ様」
言い、一口飲んだビールがいつもよりも苦く感じないのはただの気のせいだろうか。
――いや、すぐ目の前の槇野の笑顔のおかげだと高崎は思う。
槇野は笑う時はいつも全力で、手放しで笑う。
整った顔が崩れることなど、まるっきりお構いなしだ。
ついつい釣られて、一息で中ジョッキの半分まで飲み進めてしまった。
ぐい吞みから離した口で槇野は、今現在ここに皆が居ない理由を滔々と語り出した。
「本当に疲れた。綾乃は付き合い始めたばかりのカレシがうるさいとかで、三十分もしない内にとっとと帰った」
「大変だな」
高崎は言葉少なに、当たり障りのない相づちを打つ。
「槇野が」ではなく、束縛が強い男と付き合い出した綾乃こと「尾上綾乃が」大変だと思った。
高崎とは真逆も真逆、正反対に槇野はズバリ核心を突いてきた。
声を低くひそめ、心持ち顔を高崎へと近付けてきて言う。
「アレは又、すぐに別れるな」
高崎はすぐさま槇野から顔を逸らした。
「尾上はもっとちゃんと付き合う相手を選べばいいのに。顔も可愛いんだから」
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