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ネクスト・ステージ
戦いを終えた両校のメンバーはそれぞれマスクを着け、向かい合って整列した。
「ではお互いに、礼!」
高岡がそう言うと、
「ありがとうございました!」
と、選手達が互いに深々と頭を下げた。両チームを、そして龍樹を称える拍手が一斉に鳴り響いた。
「大山さん」
高岡が龍樹を呼び止めた。
「2年前に藤川さんが大山さんと戦ったあの新人戦。あれから藤川さんの目の色が明らかに変わった。君と双璧を成してくれたからこそ、藤川さんはただの璧じゃなくなったんだ。本当にありがとう。努力が報われないことも、理不尽なことも世の中にはあるかも知れない。でも君の姿には他の人の心を揺さぶる力がある。だから、これからも水泳を続けてほしい」
高岡はそう告げた。龍樹は無言で頷く。龍樹の頭を支配していた迷いは夜空へと消えていっていた。
「龍樹」
颯がそう言って駆け寄ってきた。
「全国大会、頑張って来いよ」
龍樹がそう言うと、颯は頷いた。
「お前はどこの高校に行くんだ?」
颯が問いかける。
「寒梅高校を第一志望にしているよ」
「そうか。じゃあ次の大会では寒梅対南橘の戦いになるな。ネクスト・ステージは高校総体の県大会だ。絶対に待っているからな」
颯はそう告げ、拳を突き出した。颯の拳と龍樹の拳が触れる。颯の拳は力強く、そして温かかった。
拳を突き合わせる2人の姿を見ながら、繁が呟いた。
「これでもう、龍樹は大丈夫だな」
雲一つない夜空に浮かんでいる月が、煌々と辺りを照らしていた。
【終】
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