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「おう!」
休み時間になり、同じクラスで水泳部の同期だった畠山繁が龍樹に声をかけてきた。畠山はバタフライを得意としており県大会へも出場したのだがそこで予選敗退。メドレーリレーの選手でもあったのだが、こちらもブロック大会への標準記録を突破できなかったため敗退し、部活を引退している。繁も龍樹も同じく寒梅高校を第1志望校にしているため、夏期講習のクラスも一緒なのだ。
「ああ、繁か……」
「相変わらず元気ないな」
「……やっぱり、分かるか?」
完全に萎れ切っている龍樹を見ながら、繁はため息をついた。
「もうそろそろ元気出せって。そんなに干からびてたら受験も勝てなくなるぞ?……って言っても、お前の場合はかけてきた情熱が俺とは違いすぎるか…………」
「悪いな。気を遣わせてばっかで」
「いいってことよ。お前のことだから、メドレーリレーメンバーをブロック大会に連れていけなかった責任も感じているんだろ?」
龍樹は否定も肯定もせず、口をつぐんでいる。
「でもな、どっかで前を向く必要はあると思うぜ。リレーは団体競技なんだから、誰のせいなんていうものは存在しない。それに、高校に入ってからも水泳は続けるんだろ?」
「それも、どうするかわからない……」
小声で呟く龍樹を前に、繁は再びため息をついた。チャイムが鳴ると同時に、ガラガラとドアの開く音がする。それと同時に3時間目の社会科担当の森が教室へと入ってきた。
「ま、こんなときに色々考えてもしょうがない。無理矢理でもいいから今は目の前のこと、やってこうぜ……」
龍樹にそう告げると、繁は自席へと戻っていった。
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