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リターン・マッチ
「それでは、400mメドレーリレーの出場チーム紹介です。第4コース県北中。佐藤君、菊池君、畠山君、大山君」
南山中の女子生徒によるメガホン越しのアナウンスを受けて、観客席から盛大な拍手が起こった。
「第5コース南山中。田中君、堀内君、磯部君、藤川君」
再び観客席から拍手が沸き起こる。高岡のホイッスルとともに、第1泳者の佐藤と田中がプールの中へと飛び込んだ。スタート台のグリップに掴まり、合図を待つ。
「テイク・ユア・マークス!」
高岡の声と同時に2人は身体を丸め、スタートの態勢を整える。真っ暗になった空の下で街灯が2人を照らす中、高らかにホイッスルが鳴らされた。
背泳ぎでリードを取ったのは南山中の田中だった。バサロスタートを華麗に決めて15mぎりぎりのところで浮き上がると、1搔きごとにグングンと身体を推進させていく。25mのところではすでに体半分のリードを取り、50mのところでは体1つ分弱にまでリードを広げた。ただ、後半に強いのが県北中の佐藤。ターンを決めた後は田中との差をじりじりと詰めていく。そして南山中が体半分のリードを奪った状態で壁にタッチ。第2泳者へと引き継がれた。堀内が飛び込んで1掻き1蹴りを終えると、強靭なキックで更に前へ前へと進んでいく。しかしそれを凌ぐ勢いで追い上げるのが県北中の菊池だ。50mのターンは両者ほぼ同時。第3泳者へと引き継がれた時には県北中が首1つリードしていた。県北中の第3泳者は繁。少しでもリードを保った状態で龍樹の出番を迎えようと懸命にドルフィンキックを打つ。しかし敵もさるもので、磯部は一切それに臆することなく喰らいついてくる。あっという間に2人は100mを泳ぎ終わり、龍樹と颯はほとんど同時にプールへとダイブしていった。
最大のライバルが隣で泳ぐ中、龍樹は黙々と、少しでも前の水を掴めるよう腕を大きく伸ばす。隣で颯が懸命に水を掻く音が聞こえてくる。龍樹はそれに対して何故か幸福感を覚えていた。でも勝負は勝負。負ける訳にはいかない。
クイックターンを決めて残すは50m。ここからは問答無用のオールアウトだ。呼吸回数を一気に減らし、プルの速度を上げる。残り25mの地点で龍樹はちらりと隣を見た。龍樹と颯はほぼ横一線。龍樹は更にキックを強めた。残り10m、5m……最後の力を振り絞って壁に右手をタッチし、水面から顔を上げた。タッチのタイミングは颯とほとんど同時だった。
「4コース県北中、4分15秒10。5コース南山中、4分15秒17。勝者、県北中!」
高岡が高らかにそう宣言すると、スタンドからは拍手が沸き起こった。颯が無言で右手を差し出すと、龍樹はコースロープを挟んでガッチリとその手を握り返した。
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