発端

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発端

なかった。 いくら探しても、 なかった。 冷蔵庫の隅から隅まで探した。 なかった。 私が食べようと入れていた、 期間限定の、なめらかふわとろ生プリン。 ない。 ない! ない!!! ないぃぃぃぃぃぃい!!!!!!!!!! 誰かが、食べやがった。 わざわざ袋に入れて、袋には『サキの命。食べたら殺す』と書いていたにも関わらず。 まず最初に疑ったのは、3歳年下、次女のカノ。小学6年12歳。  何よりカノには、前科がある。  当時、私が中一で、カノは小学3だった。 あの時はブリンではなく、やっと見つけた、果汁そのまま夕張メロン味のアイスだった。誰にも食べられないよう袋の上から、『サキの私物。食べたらぶっ殺す』と書いていたにも関わらず、カノは食べた。 しかも、最後まで食べていないとシラをきっていたが、チクり屋の三女のミクの告げ口で判明。 私とカノは取っ組み合いの喧嘩をし、カノの長い髪を鷲掴みにして家中を引きずり回した。母が止めに入らなかったら、私はカノの髪の毛をハサミでバッサリやっていたかもしれない。  ちょっと自分が、怖い。 次に疑うのは、三女のミクだ。 普段は大人しい。というより、猫を被っていて、やたら甘え上手で、誰にでも媚びまくる。 しかし、小3になってから、裏の顔が垣間見えるようになってきた。夕飯のつまみ食い、おやつ荒らしもしている(我が家では姉妹3人のおやつはきちんとパントリーの中のカゴに分類されている)。 見方によってはカノよりずる賢いのがミクだ。 次が父。 悪意なく人のものを平気で食べる。たいがいは酔っ払った時にそれは起こる。ビールを飲んでいたから、酔っていることをいいことにプリンを食べている可能性は、ある。 最後が母親。 基本的に人の物を勝手に食べたりはしないが、何せ美味しいものには目がなく、甘いもの大好き。しかもいつもキッチンにいるから、チャンスは一番ある。 いずれにしても、必死で探しまわり、何より楽しみにしていた、なめらかふわとろ生プリンを食べたやつは、絶対に許せない!  そして犯人は、家族の中にいる。    私は冷蔵庫のドアを閉め、低くつぶやく。 「食べ物の恨みは、許さない」
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