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 三人は大学の同じゼミに所属する友達同士であり、 今日は地域の祭りへ遊びに来ていた。 りんご飴やフライドポテト、焼きそばといった定番グルメに舌鼓を打ちながら、 屋台並びを練り歩く。 長く伸びた列の端に差し掛かったところ、一軒の射的屋が現れた。 電気がついていないため外観は薄暗く、 造りも鉄パイプにビニールシートを被せただけの簡易的なものであった。 当然の如く、誰も近寄ろうとはしない。 往来の激しい周囲と相反する異様な佇まいが、彼らの好奇心を惹きつける。 「すいませーん」 道慈が店内を覗き込む。返事はない。 「あれ、いないのかな?」 音沙汰の無さに三人が踵を返そうとしたそのとき、 幽々たる店奥から老人が顔を出した。 無造作に乱れた白髪が、背景の陰影をより一層引き立たせる。 「よく来たのぉ。一人500円じゃ」 皺だらけの手の平に、三枚の500円玉が手渡された。 「毎度あり。うちは一風変わった射的をやっていてのぉ。  流行りのVR(びーあーる)というやつじゃな」 「まじ? 面白そうじゃん」 VRという最新の言葉に色めき立つ若者を眺め見て、 老人は心なしか口角を上げる。 「欲しい景品は?」 「え、俺たちが決めちゃっていいんですか?」 「何でも構わんよ」 軽く目配せをした後、口を揃えて言う三人。 「じゃあ、RS8の本体で!」 RS8はVR機能を搭載した最新のゲーム機である。 とてつもない人気により各地で品薄状態が続き、 また、簡単には手の出せない高額な代物だった。 「よかろう。早速、射的を始めよう」 條太郎はふと疑問に思った。店先には一般的な射的の設備が皆無。 「VRって、専用のゴーグルとかつけなくていいんですか?」 「うちはお客自身にVRの世界へ入ってもらうのじゃよ。  細かい説明はせんから、楽しんでな」 にやつく老人の言葉尻が聞こえるか否かのところで、 三人は意識が徐々に朦朧としていくのを感じた。
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