37人が本棚に入れています
本棚に追加
コルクが虚しくコートの上を滑り落ち、ガスマスク男は振り向く。
そこに敵対心を露わにした道慈が対峙する。
條太郎は暴れるように闇雲に走り、遂に蘭と合流した。
抱き合う感触に震えを知覚したが、それが果たして彼女によるものなのか、
はたまた自分の恐怖心なのかさえ分からなかった。
威嚇をものともせず、ガスマスク男は無言でレーザー銃を構える。
いつ発射されるのか、気迫の籠った眼光で銃口を見つめる道慈。
「蘭! 條太郎! 逃げてくれ……!」
猶予さえ与えてはくれず、レーザー光線が道慈の眉間を貫通する。
体力ゲージはたちまち0を示した。
惨劇を目の当たりにした蘭がまたしても取り乱す。
「道慈が、道慈が……!」
判断は一瞬だった。
條太郎は、泣き喚く彼女を強引に引き連れてエリアCへ退散した。
巻き上がる向かい風に止め処ない涙が運ばれる。
彼の胸中は昇華し難い後悔で溢れ返っていた。
行動制限能力を使えば、少しは敵を足止めできたかもしれないのに、
怖気付いて前線に猛進できなかった自分がたまらなく情けなかった。
自らを犠牲にした道慈に対して顔向けできなかった。
どれだけ謝っても謝りきれなかった。
最初のコメントを投稿しよう!