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ディックにうながされて、はるか前方を見ると、わたしたちの街が遠くにうっすらと見えてきた。乱立する無数の煙突が、地平線から伸びている。
終点はギア・タウン駅。鉱物などの資源が、周辺地域からたくさん集まってくる大きな駅だ。集まった資源は、時計やコンパス、顕微鏡――その他、トンデモな発明品に姿を変えて、王都などへ運ばれていく。だから、ギア・タウンは「技術者の街」なんて呼ばれている。
ここに住んでる職人さんたちって、みんなすごい人ばっかりなんだよね。その代わりというべきか、みんな変わり者だけど。ギア・タウンでは、どんなにえらい王様よりも、すごいものを作れる職人の方が尊敬されるんだ。
速度を落としてゆっくりと駅に入っていく。窓の外の光景に、マリーは目を見張っていた。
「わあ、煙突のついた建物がいっぱいですねぇ! あのお店、何売ってるんでしょう? あ、あっちにはカエル族の人が歩いてます。人間以外の種族も暮らしてるんですねぇ」
まあ、初めて来たらびっくりするよね。わたしもそうだったよ。
見たこともないような物であふれていて、人間の街なのに他の種族も堂々と歩いている。おまけに、あちこちの工房の煙突からは、赤、青、黄色、その他いろんな色の煙がもくもくと噴き出している。
ホームに着くと、顔なじみの駅員のおじさんが手を振っていたので、わたしも振り返した。
「ロナルドさん、お疲れさま!」
「おっ、フランちゃんは今日も元気だなぁ」
「まあね。今日はこれでおしまいだし」
ロナルドさんは、わかりやすくうらやましそうな顔をした。
「ああ……おじさんも早く上がってお酒が飲みたいよ」
ロナルドさん……早く上がったとしても、昼間からお酒を飲むのは、どうかと思うよ。
とはいえ、大酒飲みなことはたまにきずだけれど、ロナルドさんの仕事は的確だ。あっというまにムーンライト号から貨物車を取り外してくれた。ホームを抜けて、街の中をゆっくりと走らせていく。
「え、街の中を機関車で走れるんですか?」
「地面を見てみろよ」
ディックの言う通りに、窓から身を乗り出して地面を見たマリーは、「線路が敷いてあります!」と感心していた。
そう、ギア・タウンにはあちこちに線路が敷いてあって、機関車やトロッコなんかが通れるようになってるんだ。鉱物みたいな重い資源も楽に運べるように、っていう意図らしいけど、おかげでわたしたちはかなり助かってるんだよね。だって、こうして街中の整備工場まで楽に行けるわけだし。
お店の並ぶ通りを安全運転で走り抜けて、工房が立ち並ぶ裏通りにたどり着く。その一画にある、倉庫のような建物が、わたしたちの目的地。ムーンライト号の整備を担当してくれる、「トレイシー整備工場」だ。ちなみに、わたしたちが二階に部屋を借りている下宿先でもある。
わたしたちが到着すると、工場の大きな扉はタイミングよく開かれた。扉の周りには、青い光をまとった小さな精霊たちが飛び回って、ニコニコと歓迎してくれている。この子たちが開けてくれたみたい。
工場の中には、工具や部品、整備途中の機械などがずらりと並んでいる。物であふれていても散らかっている感じがしないのは、工場主がきれい好きの完璧主義者だからだろう。
中にムーンライト号を停車させて、機関室から降りると、
「おお、フランとディックか」
奥の部屋から、この工場の主が顔を出した。ゴーグルを頭につけっぱなしのところを見るに、何かを作業をしている最中だったのかもしれない。
すらりとした高い背、すれ違ったら誰もが振り返る美しい顔つき、淡い緑色の肌。人間離れした美しさからわかるように、トレイシーは本当に人間ではない。エルフと呼ばれる、魔法を得意とする種族だ。この工場に住み着いている精霊も、トレイシーが使役している水の精霊だ。
「昨日調整したところはどうだったかな? 僕としてはかなりうまくいった自信があったのだけれど」
「うん、バッチリだったよ」
「フフン、そうかいそうかい! 僕の調整なのだから当然か!」
相変わらず、トレイシーは自信過剰だなぁ。腕がいいのはたしかだけど、この自信はどこからわいてくるんだか。以前、ディックにこれを言ったら、「おまえらは似た者同士だろ」なんて言われたけど。この変人エルフといっしょにするなんて、まったく、失礼しちゃうよ。
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