第二章 ギア・タウン、トラブル発生!?

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第二章 ギア・タウン、トラブル発生!?

 機関士の制服からお気に入りのワンピースに着替えて、わたしたちは街へと繰り出した。  昼下がりのギア・タウンは、とってもいい天気。青空の間を、工房の煙突から出るカラフルな煙が彩っている。  う~ん、気持ちいい!  工房街の職人さんたちも、こんな日には窓を開け放って仕事をしているようだ。工房の中からは、機械音やトンカチで鉄を叩く音に混じって、陽気な鼻歌が聴こえてくる。  ――技術者の街、ギア・タウン。その名の通り、ここは様々な分野の職人さんや発明家たちが、たくさん住んでる街なんだ。いちおう人間の領地ではあるんだけど、いろんな種族の人たちが集まってきている。というのも、ギア・タウンでは、種族よりも「自分の技のためにどんな努力をしてきたか」の方が、よっぽど重要視されるんだよね。  だから、ギア・タウンにはエルフが整備工場を構えているし、オオカミ族のハーフも堂々と街中を歩くことができる。それは、人魚も例外ではない。 「魔族、ウサギ族、トカゲ族……本当にいろんな種族の人たちがいるんですねぇ」  台車の上で揺られながら、マリーはきょろきょろと辺りを見回していた。 「たしかに、これならあたしが目立つこともなさそうですね」 「でしょ。マリー、陸地は初めてなんだよね? 人目なんて気にしないで、思いっきり遊ぼうよ!」 「フラン、何しに来たか覚えてるのか?」  台車を押していたディックがあきれ顔をする。  うっ、わかってるって。トレイシーのおつかいでしょ。  預かってきたメモを開いて、内容を確認する。まずは、「フロッグ部品工房」で歯車とネジを購入、と。 「早いとこ終わらせて、『ユニコーン食堂』でティータイムにしようよ」  わたし、「ユニコーン食堂」のスコーンが大好物なんだよね。焼き立てのスコーンと、甘いジャムとクロテッドクリームが相性抜群なんだよ。ああ、考えているだけでお腹が空いてきた……。 「そのまぬけ面どうにかしろよ。よだれ出てるぞ」 「えっ、うそ!?」 「うそだよ」  はああ!?  ディックはにやりと笑って、台車を押しながら先を歩いていった。  もう、性格わるい! ディックはいつも大人ぶってるけどさ、こういうことするのは子どもっぽいって、わかってる?  大きなバケツから身を乗り出したマリーは、わたしとディックを交互に見て、しみじみとこぼした。 「お二人は仲良しさんですねぇ」 「「仲良くない!」」 「ええ~? 息ぴったりじゃないですか、やっぱり仲良しさんですよぉ」  能天気に笑うマリーに、物申したい気持ちでいっぱいだったけれど、ぐっとこらえた。なんでって、またディックとハモる気がしたから。ディックも同じことを考えているようで、オオカミの大きな口を引き結んで押し黙っている。  別に仲良くないわけじゃないけどさ、面と向かって言われると否定したくなっちゃうんだよ。ディックは幼なじみで、くされ縁だから、友だちって感じでもないし。  そんなことを考えていると、不意にディックが立ち止まった。台車に足を引っかけたわたしは、あやうく転びそうになる。文句をつけようと顔を上げると、台車の前には、小さな男の子が立ちふさがっていた。肩で息をしているところを見るに、かなり急いできたのだろう。 えっと、この子は近所の駅員さんの息子で、名前はたしか…… 「マーク、だよね。そんなに急いでどうしたの?」 「ふ、フランっ……!」  そばかすの散ったマークの顔が、くしゃりとゆがむ。 「お願いだフラン、妹を助けて!」  訴える声は、今にも泣き出しそうだった。  わたしたちの間に緊張が走った。ディックと一瞥を交わしてから、マークのそばにしゃがんで、続きをうながした。 「どういうこと?」 「と、友だちと工場の屋根に上って遊んでたんだ、そしたらいっしょにいた妹が足を滑らせて落ちそうになって……!」  や、屋根に上って遊ぶ!? 「何やってるの! あぶないってことくらいわかるじゃん!」 「ご、ごめんなさ……」  マークの目に溜まっていた涙がこぼれ落ちそうになるのを、あわててぬぐい取った。今はそんなことを言っている場合じゃなかった。  マークは、わたしなら助けられるって信じて頼ってくれてるんだ。それに応えなきゃ。  険しい表情のディックと不安げなマリーに、「先に行ってくるね」と告げた。台車でマリーを運びながらでは、急行することはできないだろう。 「フラン、大丈夫か?」  ディックの言葉は、心配というよりは、確認の響きをともなっていた。力強くうなずいて、マークの方へ振り返る。 「すぐに行くよ。案内して!」
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