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今宵、悲劇の終焉を祈る
『………見上げて御覧。あの星を。』
以前、知り合った相手に付き合わされて、と或る高校生の天文部の合宿も兼ねて、遠路遥々訪れていた長野県安曇野市にある蕎麦畑の奥地に眠ると噂されている小高い丘の袂にある寂れた温泉旅館から物語は始まる。
「………日下君とは、話をするのは初めてだったわよね?………私、氷室由岐。一応、クラス委員の仕事もしてるんだけど、なかなか皆と話も出来なくて。」
夕食後の湯上がりのコーヒー牛乳を飲み干していたボクの傍らに、クラス委員の氷室由岐が近付いて来た。クラスの男子生徒の中ではマドンナ的存在みたいだけれど。
そんな彼女が、口を開いたかと思うと、夜空を指差して呟いた。
「………あそこを見上げて!あの星の集まりの星座って、何だったかしら?」
「あれは、オリオン座だよ………。」
「………スゴ~い。日下君って、星座の事は何でも物知り博士なのね。ひょっとして、星座や神話なんかにも興味があったりするのかしらぁ?」
その時、ボクは思いの丈を彼女に打ち明けようとするのだった。
「………神話って、ボクにとっては、魂の故郷みたいなモノだからね。」
「ふ~ん。」
済ました表情で、ボクの傍らで話を聞いている由岐の姿。彼女とは、物心付いた頃からの幼馴染みだったのだけれど、お互いの家庭の都合で引っ越ししてしまった為に暫くは離れ離れになってしまっていたのだけれど、偶然にも高校の入学式の日に桜の木の下で再会を果たすのだった。
………それでも、彼女の脳裏には、ボクと言う名の存在は跡形も無く消し去られてしまっていたんだけどね。
それにしても、………冬のオリオン。
あのオリオン座を見上げていると、何処かしら物悲しい神話を思い出してしまう。
あっ、………其処のアナタ!
オリオン座の神話って、御存知かしら?
まぁー、端的に述べてしまうと、人類世界で持て囃されている噺の何処までが真実なのかは分かりかねている今日この頃なのですけれどネェ………。。。
あれは、………神話と呼ばれている時代。オリンポスの大地に双子の神が誕生するに至ったのだけれど。
月と狩猟の女神・アルテミス。
その双子の兄とされている、やがては太陽神と呼ばれたアポロン。
オリンポスで生きる狩人であるオリオンを巡り、アルテミスとアポロンのスレ違いの日々が始まったとされている伝説。
それが、神話から受け継がされてしまったこのボクと今では何処にいるのかも分からず終いでいる双子の妹。
………………そう。
そんな忘れ形見の様な妹のアルテミスの面影を感じてしまっていた相手と、この地上世界を旅していた最中に出会ってしまっていたのが、今となっても忘れはしない、かれこれ20年程昔に遡る、或る年の夏の日の昼下がりの事。月曜日だったかしら。
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