今宵、悲劇の終焉を祈る

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その頃、あの時代のボクは、何のつもりで暮らしていたのかしらネェ。生活苦に耐えられなくて、あろう事か、東京都渋谷区にあるスクランブル交差点から少し離れた歩道橋の上から、その身を投げ出してしまおうとしていたその瞬間、誰かに右腕の手首を捕まれて、ふと我に返ってしまった。 「………そんなに簡単に命を粗末にしていると、死んだら地獄に堕とされるわよ?」 ボクはふと顔を上げると、其処には、栗毛色をしたショートヘアの似合っている、気高くも美しく見える少女が佇んでいた。 「………キ、キミは一体!?」 すると、その少女は、まるで当たり前であるかの様に呟いた。 「………人に名前を尋ねるのなら、最初に自分から名乗るのが普通でしょ?」 (………確かに。鋭い指摘。) まるで、弓矢で射貫かれてしまった獣であるかの様に、身動きひとつ取れなくなってしまっていた、その頃のボク。 「………ゴメン。僕の名前は、日下陽平。」 「………………そう。」 そう答えると、彼女は、そそくさと去って行こうとしていた。 「………あ、あの。………ちょっと!」 思わず、彼女を呼び止めてしまっていた、少し狼狽えているボク。 「僕は、確かに、名乗ったんだから、キミの名前も教えて欲しいんだけど。じゃ無いと、何だか不公平だと思う。」 その時、その少女は、仄かな笑みを浮かべながら、ボクに向かって呟いた。 「………如月 紫音。」 ( ………キサラギ シオン。) それが、彼女の人としての名前だった。その日の光景が、ボクと紫音の新たな運命の幕開けの瞬間となるのだった。
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