捏造され侵攻をうけた者の恨み

2/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 時は2011年。ある牧場には、サイエンスクリーチャーと呼ばれる生き物達が黒龍、という名の細身の青年と平和に暮らしていた。  あるものは飲み物に何やら調味料を入れて不思議なものを作り出し。またある生き物は無我夢中で大きな肉にかぶりついている。…その主である黒龍もまた、献身的に生き物達の世話を焼いていて。生き物達からの信頼もかなり厚かった。  ある生き物はこう思った。"この平和がずっと続けばいいのに"、と。…しかし、その願いは…かなわなかった。  突然の来客。それは小学生くらいと思われる見た目の、髪を前で切りそろえた男の姿。…その男の放った言葉に、黒龍は驚きを隠せなかった。…その男曰く、黒龍の牧場にいる生き物達がマイクロアニマル、という名の生き物達に対して度重なる攻撃を行い、甚大な犠牲を出した、というのだ。  男からの言葉を聞いていた生き物達は目を丸くさせた。男の言っていることはまるっきりのでたらめだからである。…その事は黒龍も理解しており。ほかの場所の牧場でもそのようなことを聞いたことがないからなのかその事を証拠として黒龍が男に対して反論をする。…しかし男は、聞き入れる様子がなく。黒龍に手錠をかけ口の周辺に白い布を巻くや否や黒龍の事を楽々と担ぎ上げた後。ほかのサイエンスクリーチャーたちも捕まえようと行動へ移した。  サイエンスクリーチャーたちもただただ無抵抗につかまったわけではない。やった覚えのない、いわれのない罪を着せられたがために如何にか捕まらないためにも、と逃げ回り、生存本能からか男達へと爪や足などを振るって抵抗する。…しかし、それらも無駄に終わる。見知らぬ男達はサイエンスクリーチャーの事を摩訶不思議な力を使ってサイエンスクリーチャーたちの持つ力を封じたのだ。…封じてしまえば御しやすい、とでも思ったのだろう。容易くサイエンスクリーチャーたちが男とその仲間と思われる見知らぬ生き物達によって檻へと入れられ。大きなビルへと運ばれていった。…都会などでよくみられるオフィスビルのような見た目の建物。…その大きさからして、いくつものオフィスなどが連なっているのだろう…外見からそうイメージをするサイエンスクリーチャーの内の一匹…クリーム色の体の犬のような姿の生き物。…と、少ししてその生き物の入れられた檻はビルの裏手の方へと回っていき。いわゆる裏口といわれるところへと入っていく。  やや薄暗い廊下。…非常口の緑色の明かりがやけに目立つ。檻を引っ張っている謎の生き物達はある程度まで進むと。エレベーターのスイッチを押した。  20階、と記された表示板の数字が減っていく。…そして1階と記されると同時に。エレベーターのドアが開いた。  ガタン、ガタン。エレベーターの入り口の近くの溝に合わせ、檻が揺れる。 (…これからどんな運命が待ち受けているんだろう。…ろくでもないことが待ち受けているであろうことは大体予測できるけど。)  ガラガラガラ。謎の生き物達によって引かれる檻。…やがて、広めの牢屋の前に付くと。謎の生き物達はサイエンスクリーチャー達の入っていた檻の扉を乱暴に開けた。 (檻の扉が開いた、さあ、逃げよう!)  まず考えたのはそんなことだった。いち早く平和な生活を手に入れたい。そう思っての行動。…しかしそれは叶わなかった。 「超能力を使ってアイツを浮かし、牢屋の奥の壁へと叩きつけろ!」  何かに指示をするかのような男の声。それが聞こえて少ししたのちに、クリーム色をしたその生き物の体は宙に浮き…牢屋の奥の壁へと強く叩きつけられた。 「っ!?な、何をするんだ!僕達の事をこんな風にして、いったい何が目的なんだ!」  いきなりの事に驚きつつも、恨めし気にその生き物が男をにらむ。…それが男の癇に障ったのか。男は明らかに不機嫌な表情を浮かべた。 「…なんだその目は、反抗的だな。…しらばっくれていても無駄だぞ。…必ずお前達の口から真実を吐かせてもらう。」  真実っていったい何。僕達は、本当に何も知らない。…ただ牧場で暮らしていたことの何が悪かったの。  ぐるぐるぐる。頭の中が周りに回ってゆく。訳が、分からない。訳が、分からない。  なぜこんなことになってしまったのか。その理由が、分からない。  犬に似た姿をしたクリーム色の生き物が、自身の主である細身の男性…黒龍の事を何かを訴えかけるように見続ける。…しかし喋ることができないのか、黒龍はどこか悲しそうな眼を向けるほかなかった。  やや大きめの牢屋。そこにほかのサイエンスクリーチャーも入れられ行く。…それの中には、サイエンスクリーチャーの中で上位に入るほどの強さを持つ生き物も入れられていた。 「…。僕達、ただ平和に、のどかに暮らしていた、だけだよね?」 「ああ。…俺としても、なぜこんなことになったのか。理解に苦しむ。」  何が悪かったのか。なぜこんなことになったのか。今までの行いを一つ一つ振り返ってゆくが…どれも心当たりはない。それは同じ牢屋に入れられたサイエンスクリーチャーたちはおろか、別の牢屋へと入れられた生き物達もまた、同じった。  なんでこうなったのか、考えても考えても、答えは見つからない。…その最中。看守と思われる物…鉄道の先頭車両部分だけを切り取った姿をしたロボットがサイエンスクリーチャーたちの主を引きずりつつ牢屋の前へとやってくる。  …サイエンスクリーチャーの飼い主よりも身長はさほど高くないのだろうか。気絶しているその男のズボンは床と接している部分が黒ずみ…ところどころボロボロになっていた。…いや、その男の体なども見てほしい。みぞおち部分を中心として、そこかしこに汚れがついている。…よくよく見れば顔も頬や鼻、口の部分に痛々しい痣ができている。 「黒龍―――!」  痛ましいさまを見たサイエンスクリーチャーの内の一体が悲痛な叫びをあげる。声をかけても、その男は呻くばかり。…よほど痛めつけられたのだろう。…叫んだサイエンスクリーチャーはその飼い主たる男の体に縋り付いて泣き、別のサイエンスクリーチャーが憎悪の目をその鉄道の先頭車両部分だけを切り取ったような姿のロボットに向ける。…その視線の意図をくみ取ってか、ロボットは言葉を発した。 「…マイクロアニマルに対して残虐な行いをしてきたような奴らのくせして、そのような反抗的な目を向けるとはな。…生意気にもほどがある。…。まだしつけが必要か?」  ロボットから向けられる、蔑むような冷徹すぎる目。そのロボットを前にしても、そのサイエンスクリーチャーは憎悪の目を向け続けゆく。  傷つけられた黒龍。それを介抱する日が続くうちに。再び看守、と思われるあの"鉄道の先頭車両部分だけを切り取った姿をしたロボット"が牢屋の前にその姿を現す。何か用があっての事か。警戒をするサイエンスクリーチャー達。…そんなサイエンスクリーチャー達に、鉄道の先頭車両部分だけを切り取ったような姿をしたロボットはこう告げた。 「これから貴様らを裁判にかける。…罪状はマイクロアニマルに対して残虐な行いをしたことについて、だ。…知らないとは言わせないぞ。」 「ま、マイクロアニマルって、一体、何?そんな、生き物達は、僕達、し、知らないよ?」  ロボットからの言葉に対してサイエンスクリーチャーはおびえつつもそう答える。…しかし、その答え方が気にくわなかったのか。ロボットはギラリと目を光らせた後…どこか氷も思わせるような冷徹な雰囲気を醸し出す。 「そうしてしらばっくれていられるのも、今の内だ。…今のうちに傷のなめ合いをしているがいい。」  冷徹に吐き捨てるロボット。そのロボットが去ってからいくばくかの時が過ぎた後…別のロボットがカギをかちゃりと開ける。  助けが来たのか。…そうサイエンスクリーチャーたちは思っていたのだが、現実は非情なもの。マジックハンドのようなもので一体ずつサイエンスクリーチャーを檻の中へと入れ。その後に牢屋の中へと入って未だあちこちに痣や生傷の残っている黒龍を捕えると…そのまま何処かへと引きずっていく。  突然のことに不思議がるサイエンスクリーチャー達。その生き物達の連れていかれた先は…裁判所だった。  裁判長が座るような場所にいるのはローマ字のZの形に剃ったような髪をした緑色の肌の男。その男の正面、一般の裁判所でいうところの被告人席にあたるような場所へとサイエンスクリーチャーたちの飼い主である黒龍が座らされる。  その背後から投げかけられるすさまじいブーイング。少しして…木槌の音が鳴り響く。 「静粛に!」  水を打ったように静かになる部屋の中。直後、緑色の肌をした男が訴状を読み上げる。…その内容としてはサイエンスクリーチャーたちにとって何一つとして見覚えのない物。…無論それは黒龍とて同じ。訴状の内容に対して黒龍は反論をするが…。まるで聞き入れてもらえなかった。  続けて行われたのは証拠の品を提出する行程。…生々しく傷つけられた生き物の写された何枚もの写真。現場に残されたとされる足跡。その品々が提示されていく。…しかしそのどれにもサイエンスクリーチャーたちには見覚えがなかった。 ――あれは一体、何…!?あんな生き物達…僕、みたことがない…!  目の焦点が定まらない。明らかに動揺を隠せないでいるサイエンスクリーチャー。…黒龍とて内心は同じ気持ちだろう。その後は被告人質問と続き。検察側の論告では…検察官の座るべき席にいたたくさんの謎の生き物達がサイエンスクリーチャーにとって全く身に覚えのないことを並べ立て、"被告人は容疑を否認し続けており、反省の色が見られない"といったことを吐きかける。  それに対しても黒龍は何か言いたそうにしていたのだが…それを緑色の肌の男が木槌を叩くことで黙らせてしまった。…その結果としてサイエンスクリーチャーたちは何の反論もできることなく判決が言い渡される。…結果としては極端に偏り過ぎたもの。それを言い渡されたサイエンスクリーチャーはただただ、絶望のどん底に叩き落されたような気持ちになる。…裁判長がどんなに差別的であったとしても、この様な判決は下らないはずだ。だというのに、現実としてこのようなことが起こってしまっていた。  悔しさをにじませるサイエンスクリーチャーと、その飼い主である黒龍。…退廷していくその背に、サイエンスクリーチャー達の知らない生き物達の氷のごとき冷たい目が注がれゆく。恰もそれは遺族が快楽殺人犯にそそぐがごとき物である。  暗い様子で日々を過ごすサイエンスクリーチャー達。…判決によってすべての権利をはく奪されてしまった今、サイエンスクリーチャーは抵抗することも、反抗することもできずして謎の生き物達によってどこかへと連れていかれ…黒龍の前で恰も見せしめであるかのように謎の生き物達や"鉄道の先頭車両部分を切り取ったような姿のロボット"達によってサイエンスクリーチャーが虐げられ続け行く。…それを見ていた黒龍は静かに。ただ静かに涙を流していた。  その間のご飯ももはやゴミ、と言っても差し支えないようなものばかり。地獄、と言ってもいいようなその生活の中で。ただただサイエンスクリーチャー達は涙を呑むしかなかった。  それから一月、二月、三月。どれくらいたっただろうか。周りのサイエンスクリーチャ―の目からは光がなく。何処か虚空を見つめている。…彼らはもう、まともな味のするご飯を食べていないのだ。  骨のついた肉。サシがたくさん入って脂のたくさん乗った肉。新鮮なお魚にシャキシャキの野菜。…サイエンスクリーチャーの中に、今では夢の中の存在でしか無い食べ物が現れては消えていく。  嗚呼、神様は見捨ててしまったのであろうか。神という存在が実在したのならば小一時間抗議してやりたい。…そんなサイエンスクリーチャー達を天はあっけらかんと見捨て。絶望を目の前に付きつける。 「サイエンスクリーチャー達、お前達にいいものを見せてやるぜ。」  そう言って現れたのは一台のブラウン管テレビを台車に乗っけて現れた、鉄道の先頭車両の身を切り取り手足をくっつけたような姿をしたロボット達。…厭味ったらしい表情を浮かべたそのロボットたちは。リモコンのボタンを押し…テレビのスイッチを付ける。…そこに映されたのは天井から首をくくるための紐が釣り下がった光景。…そこへ、サイエンスクリーチャー達にとって見知った顔が現れる。 ――黒…龍…!?  痩躯の男性。それはまさしく、サイエンスクリーチャー達の主である黒龍その人。その姿を見たサイエンスクリーチャー達の内の一体…クリーム色の体の犬のような姿をした生き物がロボットたちに対して抗議の言葉をかける。 「これはいったい何!?黒龍に何をしようっていうの!?今すぐ始めようとしているバカなことをやめて!」  精一杯の抗議。…少ししてそのサイエンスクリーチャー自身に激痛が走る。  叫ぶサイエンスクリーチャー、冷徹な声がその生き物にそそがれる。 「あの時マスター・バルータ様はおっしゃられたよなぁ?"サイエンスクリーチャーからすべての権利を剥奪し、ミスラウ軍に隷属させることとする"ってよ。…だからお前達に意見する権利はぁ、ない!」  痛みでのたうつサイエンスクリーチャー。その耳に、お経を唱える声が聞こえてくる。…それが何を意味しているか、サイエンスクリーチャーはわかっていた。 ――やめろ、やめろ。  蘇る今までの楽しい思い出。蘇る黒龍の笑顔。 ――やめろ、奪うな、やめろ。  苦楽を共にした飼い主である黒龍。病気になった仲間も手厚く介抱し、友人の親戚だという医者に見せてもらった日。そんな日々が、まわりまわってはサイエンスクリーチャーの頭から消えゆく。 ――僕達の楽しかった日々を、黒龍と暮らした日々を奪うな。  ガタン。  大きな音が鳴ると同時に、サイエンスクリーチャー達の痛々しい悲鳴、そしてロボット達の高笑いが聞こえる。そして、サイエンスクリーチャーはただ、涙を流すほかなかった。  その後はずさんな治療を受け、再び牢屋に入れられたものの…サイエンスクリーチャー達はただただ悲しみの感情、そしてかすかながらの憎しみの感情以外がわくことはなかった。そして後日。サイエンスクリーチャー達は有無を言わさずミネトローネ・ファミリーという名の組織へと移動させられ…そこからはミスラウ軍、とやらとの戦いに駆り出されるのだが…その戦いもまた酷いものだった。  サイエンスクリーチャー達を見かけるや否やまるで親の仇であるかのごとく襲撃してくる謎の生き物達、そしてロボット達。…それ等の攻撃によって、サイエンスクリーチャー達が傷ついていく。しかし、ミスラウ軍の中にはただサイエンスクリーチャーの事を傷つける物ばかりではない。…傷ついたサイエンスクリーチャー達の事を治療してくれる者もいたのだ。…しかし、その者達もいずれは見つかってしまい。一人の少年によってサイエンスクリーチャー達はさらにひどい傷を負わされる。  …クリーム色の体をしたその生き物も、そのうちの一体。体中を走る酷い痛みに、そのサイエンスクリーチャーは呻くことしかできなかった。 ――痛い。痛い。なんで、なんで、なんで。  呻きつつ蹲るサイエンスクリーチャー。…その生き物にとどめを刺したのは。 「恨むならば俺達じゃなく、マイクロアニマルを襲った自分達の愚かさを恨むことだな。」  前髪を切りそろえた十代ほどと思われる少年。…それが、そのサイエンスクリーチャーにとっての最後の光景、だった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!