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「ねえ、これ一応学校のものなんだよ、ウケる。」
「いいじゃん、あいつ金持ちなんだし。」
「だな。あの見た目とあの性格で貧乏ならもう終わりじゃん。俺なら死ぬわ。」
ぎゃはは、と不快な笑い声が耳へ届く。濁った感情が沸き上がるのを抑えるために、手の甲をつねる。
私は無関係だ。そういう表情をしておく。もし彼らの悪事が世界中に晒されて、世界中から批判を受けることになったら。私は『ずっと助けたかったのに、勇気が出なかった。ごめんなさい。』と嘆いたフリをしておこうか。でも、きっと部外者に知られることはない。
彼らの親はクレーマーだと有名で影響力が大きすぎる。ここは私立高校なのだから、評判が下がることは避けたいはずだ。この件のことは、二年生全員が知っているけれど、大人も子どもも男も女も見て見ぬフリだ。
くだらないことを考えていると、教室がシンと静まった。
顔を強張らせた女の子の登場だ。
ジャージに裸足。制服はほとんど彼らにボロボロにされたのだろうか。裸足ということは、上履きに画鋲でも仕込まれていたのかもしれない。
可哀想だと思う。けど、私はなにもできないし、なにもしない。
穏やかに過ごしていたいのだ。クラスメイト同士のトラブルには巻き込まれたくない。
「性懲りもなく、今日も登校してきたんだ。」
「・・・・・・おはようございます。」
怖がっていることを隠し切れない震えた声は、彼らを煽るものでしかない。
「なんか、その髪の毛むかつくなあ。この茶色の髪が地毛だっけ?笑わせないでよ。」
「男子、髭剃り持ってきてる?」
「あ、偶然!俺、今日持って来てたんだよねえ。」
女の子の表情がどんどんと青くなっていく。
女三人がかりで一人の女の子の動きを止める。男が刃物のスイッチをオンにする。それと同時に、教室にバンとなにかを殴りつけたような音が響いた。
みんなが音がした方向に視線を向ける。
一人の男子生徒が立ち上がっていた。机で隠れている足は小鹿みたいに震えていた。
「さ、さすがにそれは辞めておいた方がいいんじゃないかな。」
少し上ずる声で彼がそんなことを言う。女の子は目を閉ざし切っていた。
「は?」
「だ、だって、さすがにバレちゃうよ。ほら、このあたりって口うるさいおばあさんが多いでしょう?変に勘繰られても面倒だし。」
彼の言葉に、髭剃りを持った男は気持ち悪い笑顔を作る。
「ああ、そうだな。確かにそうだ。女が坊主だなんて気味悪いよな。」
「だ、だよね。」
「けど、男が坊主なら、別に問題ないよな。」
たくさんのクラスメイトが目を逸らした。
私もしばらく目を閉じることにした。
「こいつ漏らしてるぞ!」
「うわ、気持ち悪すぎ!」
「これぐらいで漏らすとか笑えてくるわ。かっこつけんじゃないぞ、クソが。」
「ああ、本当、馬鹿みたいだね。ねえ、近付かないでよ、ばい菌がうつっちゃう。」
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