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「夏休みが永遠に終わらなければいい。」
「突然、どうしたの。あ、そうだ。暇ならお使いに行ってきて。今日の晩ごはん、そうめんなんだけど、そうめんがないのよね。」
「・・・・・・なにそれ。まあ、いいや。行ってくる。」
今まで学校生活を楽しいと思ったことはなかった。だから、長期休暇がずっと続けばいいと、ずっと祈ってきた。その思いが今年は一段と強い。
普段笑顔のお母さんや穏やかなお父さんを見ると、幸せすぎて怖い。あの日々に戻るのが、すごく怖い。
永遠に夏休みが続くのなら、あの子も喜ぶだろう。家でどんな仕打ちを受けているのかは知らないけど、学校よりはマシだろう。助けられないことに苦しむ人も見て見ぬフリに疲れた人も、楽になれる。なのに、もうすぐ終わりが近付いてくる。誰も喜ばない、最悪な終わりが、もうそこまで来ている。
「死ぬの?」
「・・・・・・。」
家の近くには海がある。遊泳禁止だから、人は全くいないけれど。綺麗で大きくて終わりの見えない海は嫌いじゃなかった。そんなところに知り合いが片足を突っ込んでいたら、声をかけずにはいられない。この海は浅いように見えてとても深いのだ。幼い子どもが亡くなったような事故もあったらしい。だから、遊泳禁止。
「私、この近くに家があるんだけど。別につけてきたわけじゃないよ。ここで会ったからってあの人達に報告するわけでもない。友達でもないし、連絡先も知らないから。」
勢いよく振り返った彼女は私を睨みつけていた。その顔にも痣はできていて、見ていられないと思った。
「・・・・・・。」
「溺死って苦しいよね、たぶん。」
「喋らないで。」
「私は人殺したい人に殺されるのが一番の理想。」
「黙って。」
「ここで死んだら、きっと後処理がすごく大変だよ。」
「うるさい。」
「保護者に迷惑がかかるだろうね。かけたいって思ってるのかもしれないけど。」
「黙って、って言ってるでしょ!」
「だって、ここで人が死んじゃったら、ここらへんの評判がまた悪くなるでしょ?近所のおばさんの愚痴聞かされる身にもなってよ。」
砂浜は歩きづらい。靴を脱ごうとしてやっぱりやめた。
「うるさい。自分勝手。」
「あなたも。」
「・・・・・・死ぬなって言うの?まだ人生諦めるな、って?」
「言わないよ、そんな残酷な言葉。」
「っ、・・・・・・じゃあスルーしてさっさとどこかに行ってよ。」
「スルーしたいんだけどね。足が動いてくれないの、残念。」
どこからが嘘でどこからが本心か。たぶん、図ろうとしている。けれど、私自身にも分からないことが、私とまともに喋るのが初めてな彼女に分かるわけがない。
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