0人が本棚に入れています
本棚に追加
お母さんが死んだのは私が小学3年生の頃。朝も昼も夜も働いて私とあっくんを女手一つで育てた彼女は、心臓の病気でぽっくり逝った。
お母さんは馬鹿だった。
私が産まれたのはお母さんが16歳の時。両親の反対も押し切り、駆け落ちという形で8歳上の無職と結婚した。そして弟が産まれてすぐお母さんは捨てられた。
夫に出て行かれ、両親には頼めず、学もないからいい仕事にもありつけない。我が母ながら地獄みたいな環境だった。
お母さんは余程の馬鹿だったんだろう。馬鹿だから、法的にもアウトな低賃金で馬車馬の
ように働いた。役所に相談すれば援助なりなんなり受けられたかもしれないのに調べようともしなかった。わずかに残ったお金だってすぐになくなる。知り合いの知り合いだという保険屋に言いくるめられ不必要なほど手厚い保険をかけていたから。
然るべき機関に相談すれば自分を捨てた夫から養育費だって取れるはずなのに何もせず、どころか私達の児童手当だって向こうの口座に振り込まれていた。
何より一番お母さんが馬鹿な点は、そんな状況になってさえ私達を見捨てなかったことだ。
自分だって全然食べてないのに私と弟のご飯を優先して、睡眠時間を削って私達と遊んでくれた。私を、そして弟を愛していると言ってくれた。
私達がいなければ、お母さんが死ぬこともなかったのに。
お母さんが死んでからしばらくして父親と名乗るあいつが現れた。大方役所から連絡でも行ったのだろう。
保護者を偽ることで補助金や支援金をもらい、ついでにお母さんの生命保険まで手に入れた。
あいつがうちに転がり込んできて、私の世界はくそったれたものになった。
最初のコメントを投稿しよう!