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最終話 薄珂と立珂はじめての家【後編】④
「ここじゃ決められないから考えさせて」
「必要な時は意地を張らずに頼れ。じゃないと立珂を守れないぞ」
「意地じゃないよ。取引は護栄様とするからいい」
「……すっかり懐いたな。取引の時は俺のとこにも顔を出してくれよ」
「ううん。行かない」
「え、な、なんで」
「意地だよ。与えられるだけだから傷つけられる。そんなんじゃ傍にはいられない」
「……蛍宮は嫌いか」
「好きだよ。立珂は楽しそうだし助けてくれる人もいるし。ついでに天藍もいるしね」
「ついでか……」
天藍はがっかりしたように肩を落とした。
こうしていると皇太子なんていう凄い人物のようには思えない。薄珂には天藍の凄さが分からないのだ。
だがそれを知って理解したいかというとそうでもない。何しろ薄珂の大事なものはそれではないのだから。
「俺は立珂が一番大事だ。天藍だけを選ぶことは無いよ」
「会ってすらくれないのか」
「そうじゃないよ。そうじゃないんだ」
天藍は悔しそうに口を曲げたがそれ以上は何も言わなかった。
きっと薄珂以上に天藍の身辺は複雑で、寄り添えるとしたら薄珂の方だ。けれど薄珂はわずかにも立珂以外を優先することなどできはしない。それをすれば手に入るものもあるだろうけれど、それは薄珂にとってもつらいことだ。
けれどあっさりと天藍との縁を捨てるられるほど物分かりが良いわけでも執着が無いわけでもない。
ならせめて、一方的に与えられるのではなく与えられるくらいになれれば違うのかもしれない。けれどまだ薄珂は一人では何もできないのだ。
「里からここまで助けてもらうだけだった。それじゃ駄目なんだ。だから今度こそ自分の力で頑張る。天藍に会うのはそれからだ」
そうすれば立珂以外にも大切な物を持てるかもしれない。
「それまで待ってて。ね」
「分かった。待ってる」
「……うん」
薄珂は天藍と握手をした。今の薄珂にはこれが精いっぱいだったが、この手は離さずにいようとひっそりと誓った。
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