0人が本棚に入れています
本棚に追加
夏の夜、寝室は時に戦場と化す。
夜になっても残っていた熱気はクーラーの冷気で既に駆逐されていた。
電気を消し、さあ! 至福の旅へいざ行かん! 体を布団によこたえたその瞬間。
わたしの耳は捉えてしまったーーその音を。
戦闘開始のゴングが体内に鳴り響いた。
体を起こし、電気を点ける。そして、鬼の形相で室内を見渡す。
どこだ、どこだ、どこだ、どこだ、どこだ!
しばらく虚空を睨むばかりだったが、ついに、わたしの瞳は一点の空間のゆらぎを捉えた。
「見つけた!」
今宵の敵は薄く赤みがかった戦闘服を纏っている。先日倒したモノトーンに身を包んでいた敵に比べて強敵だ。見難いカラーリングゆえに索敵が難しいうえに知能も高く、明るい環境になるとすぐに隠れてしまうからだ。
現在、室内は煌々に照らされている。つまり、こちらが敵に気付いたことが知られ次第、すぐに暗がりに身を隠してしまうだろう。
チャンスは一回しかない。
わたしは息をつめる。そして、乾坤一擲! 両手を打ち鳴らした。
やったか! 合わされた手をゆっくりと開くーーそこには何も無かった。
その後、改めて索敵を始めたが、その姿をまた見ることはついに無かった。
わたしは布団に座り込む。わたしの負けだ……。
目覚まし時計を見やる。寝室に入った時には真上を向いていた短針は、今や大きく右に傾いていた。明日は早い。これ以上の真剣勝負は無理だ……。
「もうチートするしかないか……」
わたしはひとりごちーー蚊取り線香を取りに部屋を出て行った。
最初のコメントを投稿しよう!