アヤメ

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アヤメ

 夢とは大抵意味が分からないものだが、年端も行かぬ少女から告白される夢を見るだなんて、実は自分にはペドフィリアの素質があるのではとカズマは苦笑した。  だがそんな些細な夢も慌ただしく朝の支度をしている内に忘れてしまう。カズマは鏡で服と髪型がきまっているかを確認してからバッグを持ってアパートの部屋を出る。 「……カズマくん?」  そう声をかけられたのは電車の中。隅っこの方でスマホを弄っていたカズマは反射的に顔をあげた。 「やっぱりカズマくんだ。久しぶり!」  にこにこと人が良さそうな笑顔を浮かべる女が気さくに話しかけてくるが、カズマはこの女に心当たりがなかった。  黒くて長い豊かな髪、ほっそりとした手足、透き通るような白い肌。そして幼げな顔立ち。そんな彼女をじっと見つめていると、カズマは何故か夢の中で見た少女のことを思い出す。  あの少女が成長して、髪が伸びて、痩せたらこんな感じになるかもしれないと思った。  だけどもやっぱりカズマには目の前の女のことが分からない。 「……えっと、誰だっけ?」  気まずげに訊ねると、女は一瞬傷ついた顔をしたが直ぐに笑ってみせた。 「アヤメ。渋木(シブキ) 綾女(アヤメ)だよ」  しかし残念なことに名前を聞いたというのにカズマは彼女のことがやっぱり分からなかった。
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