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 ………………。 「エリス! ああ、よかった」  花の香りとぬくもりが私をやわらかく包み、緑のリボンが目の前で揺れた。 「イレーネ? 助けてくれたの?」  ううん、と振り返るイレーネ。  そこには、すり鉢を抱えたセージと……里の薬師の老魔女(オババ)。  どうやら、薬師の家に担ぎこまれたらしい。草や薬品の匂いに鼻がひくつく。ベッドの上にランタンが灯る天井には干からびた草や魚や訳のわからないもの(魔物の屍骸?)が吊るされている。 「セージがワームの毒だと見抜き、解毒剤をいれたから命びろいしたのだよ」  と、オババはほほえんだ。 「いや。落ちるのを止めたのはイレーネだし、もしかしてと思って聞いたらワームと遭遇したことを教えてくれたのもイレーネだから」  セージは恥ずかしそうにすり鉢を見つめ、イレーネは「セージのおかげよ」と首を振った。  ふと、私は思った。死にかけたのは天罰だったのではないかと。  私はセージに冷たく当たってしまった。でも、彼はなにも悪くないし、私を傷つけたことなんてない。しかも、命まで助けてくれる。まるで天使だ。なのに私は。 「ありがとう、セージ。それから、突き放してごめん!」  私の謝罪にセージは目を見開いて驚き、そして穏やかに笑った。 「……少し離れてみて分かったよ。僕はエリスにくっついて頼ってばかりだった。オババの下で修行を始めたら、里の人の役にもたてて自信がもててきたんだ」  そう話す彼はまぶしく輝いていてた。もうしょぼくれた魔法使いではない。  私はほっとして……お腹が鳴った。 「あ。お祭りは? みんな私のせいで御馳走を食べてないんじゃない? 花火だってもうあが」  くすりと、イレーネが笑う。 「お祭りはとっくに終わってるわ。もう三日も眠ってたんだから」 「三日も?」 「気にしなくていいよ。薬師見習いとしては、助けることが御馳走より嬉しいことだから。  そういえば、エリスはいつも花火楽しみにしてたよね」  と、すり鉢を机に置いて部屋をでていくセージ。 「え?」  暗闇の窓の向こうに、が散った。  窓を開けると、セージがさっきとは違う色の火花をか細くだしている。杖を掲げ、えいっと顔をくしゃりとさせて力むも、鮮やかな火花が可愛いらしく咲くだけ。 「それじゃあ、私から。謝罪と今までの感謝の気持ちをこめて」  私は窓の外に杖をだして、星くずが集まる光の輪を夜空にあげた。 「じゃあ、私も。エリスの快気を祝って」  イレーネも杖をだし、 「ちょっとちょっと、あたしの家を燃やすつもりかい? 元気なら、でていきな」と、オババに追いだされた。  外にでて、イレーネが打ちあげたのは見事な大輪の花。またたく光は花びらが散るように消えていった。 「僕の小さかったから、申しわけないな」  顔を紅くして頭を掻くセージに、私はかぶりを振る。 「気持ちは伝わったよ。ありがとう。それに、セージは魔術力なんてなくても薬草学の知識で人を救える」  彼が笑顔を見せ、私も笑顔を作る。けど、笑いあう私たちは、もう別々の道を歩みつつあることに気づいていた。 「じゃあ、僕はウチに帰るよ」 「うん。じゃあね」  私もセージも片手をあげる。  彼は箒にまたがると、振り返った。 「イレーネ。エリスのことよろしくね」  えっ? と女二人が驚く間に、彼は星がきらめく空へと遠ざかっていく。 「うん」  ふらつく箒に答えたイレーネは私の手を握ってきた。  握り返した私は、イレーネの愛を感じながらもセージの愛も感じていた。
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