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幼馴染みはヒロインなのか?
電車内では暴動と勘違いした他の車両の乗客が非常停止ボタンを押した為、学校にはいつもより1時間遅く到着した俺だった。無論遅刻だが、駅で遅延証明書はしっかりもらってきたので問題ない。
俺は登校するだけでも些細な事で混乱の極みを作り出してしまうようだ。今後、気をつけなければならない。
「と、言うわけだ。俺はどうしたら良かった?」
2時間目の途中から出席する羽目になった俺は、その授業が終わった休み時間、前の席に座る女子に問いかけた。それは俺の生まれた時からの幼馴染み、凰前田理子である。
「知らん」
理子は使い終わった教科書をとんとんと机に打ち付けると、静かに机の中に仕舞い込んだ。俺の問いには、全く興味がなさそうだ。
「ひゅーっ、やっぱ理子ちゃん、かっこいいー」
「あんなにちっちゃいのに、いつも武藤より偉そうなのがカワイイよなー」
武藤とは俺の事だ。全知全能の主神であった時の名はアトゥム。そして、今は武藤仁吾なのである。
「凰前田さん……っ!」
「くっ、武藤くんの前の席なんてポジションだけでは飽き足らず、会話までっ……!」
そして理子は色んな意味で人気があった。単純に小学生みたいで愛らしいからなのか、そんな見た目なのに、まるで頑固親父のような誠実な性格をしているからか。
同じマンションの隣同士に住んでいる関係上、たまに一緒に帰ったりもするが、その度、理子は何者かの襲撃を受けている。毎回苦もなく撃退しているので俺はあまり気にしていないが、何故襲われるのかが謎である。
「知らん、か」
「知らん。知能の低い女たちが、それぞれに相応しい醜態を晒しただけの話だろう? お前は何も悪くない。それは気にするだけ時間の無駄だ。すぐに忘れてしまえばいい」
「そうなのか?」
「ああ、そうだ」
いつも通り、理子はぶっきらぼうで愛想が無い。だが、こいつと話しているといつも胸が温かくなるのを感じている。その理由を知りたいが……これ、直接こいつに聞いても、一回も答えてくれた事が無い。
「そんな事より、お前、昨日から変だぞ。何か隠し事をしているんじゃないのか?」
後ろ向きに座り直した理子が、ずいと俺に顔を近づけた。途端、教室にぎゃーとかうわーとかいう悲鳴が満ちた。またかよ。
「分かるか?」
まあ外野は放っておこう。俺も負けじと理子に顔を近づけた。やりすぎたのか、鼻が当たった。すると、何人かばたんばたんと倒れるような音が聞こえた。
「分からいでか。何年お前の幼馴染みをやっていると思っているんだ」
「ふーん……17年、幼馴染みをやってると、すぐに変化が分かるのか……」
理子は当然のように言っているが、俺にとってそれは理由にも説明にもなっていない。
「ちっげーよな」
「ああ、ぜってー違うって」
「好きなのよ」
「凰前田さん、武藤くんのことが好きなんだわ」
倒れた友人を介抱しつつ、なにやらそんな事を言うやつらがいた。これは理子にも聞こえているだろう。そう思い理子を見ると、いつもの無表情ながら、耳だけやけに赤かった。なんでだ? まあいい。
「理子。今夜、お前の部屋に行く」
と、言い終わる前に、教室の全ての窓ガラスがビリビリと震えるほどの絶叫が轟いた。うるさ。続きが言えないぞコレ。「その時に全部話すから、相談に乗ってくれ」って言いたかったんだけども。
「今夜だな。わ、わわわ、分かった」
コクリと小さく頷いた理子の声は、少し上ずっていた。あと、頭から湯気出てた。
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