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新入生歓迎会の夜。
俺は、いよいよ花の大学生らしい楽しい夜を経験できると期待。
もしかすると可愛い女の子と知り合いになれるかも、などと淡い期待さえ抱きながら会場である学生寮の会議室へと向かった。
ゆるさない君の姿は見えなかったが、時間になったので部長が新入生を歓迎する挨拶を行い、晴れて皆で乾杯の運びとなった。
美人副部長Mさんの音頭で
「カンパーイ♫」
と、皆が歓声を上げた瞬間!
「その乾杯、待ったー!」
恐ろしく底力のある声を張り上げ、ゆるさない君が部屋の真ん中に突入。
「一年生諸君。君らは生まれてから何年と何か月生きてきた?」
ゆるさない君は俺の肩をつかまえて叫んだ。
「サル。君は18歳じゃないのか?」
「はい。18歳です」
「この春、18歳から成人であると法律改正されたが、18歳から酒を飲んでも良いという改正はなされていない。君たち1年生は晴れて名門K大学に入学できたというのに、何故自ら進んで身の危険も顧みず法律に背こうとしているのだ? 僕は、名誉あるK大水泳部員の法律違反など断じてゆるさないぞ!君は、深い考えもなく雰囲気に流される意志薄弱な自分が恥ずかしいとは思わないのか?」
「あ、まあ」
「何だ? その意味不明な返事は! ハッキリと自分の見解を述べよ」
「わかりました。俺は法律に違犯してまで酒を飲みたいとは思いません。水で乾杯します」
「よし。よく言った。他の1年生はどうするんだ?」
そんな騒動があり、新入生歓迎会は急遽、中学生のホームルーム的自己紹介のような空気感となった。
それでも酒が入った3~4年生は大騒ぎを始め、明らかに可愛い女子部員を狙った狼男子達の自己アピール合戦が繰り広げられていた。
「よう、サル。君はカノジョなどいないだろうな?」
ゆるさない君は、まるで俺にカノジョなどいる訳がないと断定するかのような口調で、そう尋ねてきた。
確かにカノジョはいないが、まるでカノジョがいないことが当然みたいな言われ方をしたことに俺はムカついたので
「さあね」
と、はぐらかしてみた。
「何だ? まさか、カノジョいるのか?」
「どうだっていいだろ 」
単なる意地で、そう言ってしまった俺は、何だか引くに引かれぬ状況に追い詰められてしまった。
「いつから付き合ってる?同じ大学か?」
ゆるさない君に問い詰められ、俺はつい、まったくデタラメなカノジョ像を思い描きながらウソをついてしまった。
「つい最近、付き合い始めたばかりです。学部は違うけど同じ大学です」
「やるな!今度、紹介しろ。そうだ、今週末、カノジョもいっしょにドライブしよう。ランチは僕がおごる。横須賀に友だちがバイトしてるシャレたイタリアン・カフェがあるんだ。約束だぞ」
「わかりました」
ああ、俺ってホント、どうしようもない男。
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