ゆるさない男とゆるす男

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新入生歓迎会があったのは木曜日の夜。 今週末って?! もう時間がない。 金曜日の朝、俺は真新しいシャツを着て、校庭の木に寄りかかり誰かを待っている風を装って通り過ぎる女子を物色していた。 背の小さな女子が重そうなカバンを二つ持って歩いていたので声をかけた。 「大変そうですね。一つ、持ちましょうか?」 「キモッ」 一言で切り捨てられた。 大人っぽいスーツ姿の女性がハンカチを落としたので、拾い上げて走って追いつき声をかけた。 「あの、コレ、落としました」 「ソレ、捨てたの。悪いけど、どこかに捨ててくれる?」 「あ・・はい」 「もう、マジ、迷惑! 早く捨てて」 はあ。 何で、こうなるんだ。 俺は仕方なく、その高級そうなハンカチを捨てるゴミ箱を探した。 飲み物の自動販売機の近くにゴミ箱が並んでいたが、ビン・缶・ペットボトルという表示しかなく、ハンカチは捨てられそうにない。 俺が困ってウロウロしていると、天使のような可愛い女子に声をかけられた。 「どうかしました?」 「このハンカチ捨てたいんだけど、どこに捨てたらいいかわかんなくて」 「えっ? コレ、フェラガモですよね。どうして捨てちゃうんですか」 「いや・・その・・実は」 そんな切っ掛けから、俺は、その子に、カノジョに成りすましてくれないかと事情を話した。 「お願いします。今週末だけでもいいからカノジョのふりしてもらえませんか? 」 すると彼女は、意外なことを言い出した。 「ちょうどよかったわ。私もカレシのふりしてくれる人、探してたの。今夜、私の家に来て、私の両親に会ってほしいの」 「えっ? ご両親に?」 「そう。お願いします。そしてね。そして・・・」 彼女は声を詰まらせ涙ぐんだ。 「私、妊娠してしまったの」 「えっ?」 「お願い! 私を妊娠させたのは、あなたってことにして」 「ええっ?」 「私の家、両親も兄も、みんな厳しいの。とてもとても厳しいの。もし、私が誰の子かわからない子どもを妊娠しているなんてことがバレたら、きっと勘当されてしまう」 「えええっ?」 「お願い。助けて。私を助けて下さい。そうじゃなきゃ、私、もう死んじゃいたい。本当に困ってるの」 「ええええっ?」 彼女は急に、俺の胸に飛び込んで泣き出した。 やべー。 さすがに、やべー。 どうしよう。 通り過ぎる学生たちは、好奇心旺盛な眼差しで俺たちを見ている。 「おい、サクラ。どうしたんだ? なんだ、サルじゃねぇか。僕の妹を泣かせるとは、いい度胸してるな」 何と! ゆるさない君ではないか。 「あ、違うの。お兄ちゃん。彼は、カ、カレは、とても優しくて。私は嬉しくて泣いてるだけ」 「本当か? サクラ」 「本当よ。カレ、今夜、家に挨拶に来てくれるの。お兄ちゃんも私たちの恋、応援してくれるわよね? お願い、お兄ちゃん。私たち真剣なの」 「サクラ。確かにサルはいいヤツだと思うが。まだ、付き合い始めたばっかりなんだろう? 親に紹介するのは早過ぎないか?」 「お兄ちゃん。私、コソコソ秘密にしたくないの。パパやママに、しっかり認めてもらって公明正大にカレと交際したいの」 「ふ~む。サクラ、そんなにこの男が好きなのか?」 「大好き。もう離れられない。カレと引き離されるくらいなら、いっそ死んでしまいたい。愛してるの」 「そうか。サル。そうと決まったら、僕は全面的に君たちの味方だ。妹をよろしく頼むぞ。裏切ったりしたら、絶対にからな。わかってるな」 「はい!」 ああ、俺はつい『はい』と言ってしまった。 どうすんだよ、俺~!
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