ゆるさない男とゆるす男

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その日、俺は授業どころではなく、一日中、サクラと夜の打ち合わせをした。 「あのね・・中絶するなら、もうギリギリなの」 「それは困ったな」 「だから謝ってほしいの。両親に。お願い」 「う、う~ん。うまく謝れる自信がない」 「そうよね。ごめんね。変なことお願いして。でも、きっと大丈夫。誠意を込めて、申し訳ございませんでした、とでいいから」 「もし、子どもを産めと言われたら?」 「その時は子どものになって!」 「そんなウソ、バレるよ」 「あなた血液型、何型?」 「俺、B型」 「ラッキー! 私はA型よ。ってことは、子どもが何型でも疑われないわ。そうでしょう? それに本当の父親は誰かわからないけど、一応医学部の学生だから。子どもの頭は悪くないと思う」 「みんな…って! どうして、そんなことしたんだ?」 「両親も兄も厳しくて、いつまでも私を子ども扱いして、ウンザリしてた。思いっきり反抗してみたくなったの。でも、でも…」 サクラはその先を説明できず、泣くばかりだ。 俺は大概何でもゆるす男だ。 しかし、こんなことまで、いいのか?! 「タカシって呼んでいい? 私のことはサクラって呼んで」 「うん」 「ねえ、タカシ。カレシになる練習して」 「練習?」 「お願い。だってほら、私を妊娠させちゃったカレシのふりをするためには、それっぽい態度できなきゃ両親や兄をダマしきれないと思うから」 「それっぽい態度…って?」 ウブな俺は心臓がターボ状態。 「これから場所を移動して練習しましょう? 」 「ええっ? 俺、マジ、迷ってるんです」 「迷っても遅いわ。お兄ちゃんに、タカシがカレシだってバレちゃったんですもの。裏切ったりしたら、きっと殺される。絶対に、と思う、お兄ちゃんは!」 「そ、そうだよな」 「だから、もう、練習するしかないの。早く、行きましょう。お金なら持ってるから」 とうとう俺は観念して、サクラとしてしまった。 ああ、何てこった!
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