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<幕間2>
再び目に飛び込んできたのは本棚が立ち並ぶ〈夢見図書館〉。
足元には『金太郎』の絵本が転がっていた。おサムライさんたちと一緒に旅立つ金太郎の姿が描かれた最後のページ。それまではにこにこと優しそうな笑顔を浮かべていた金太郎が、キリリと引き締まった顔をしているのが印象的だ。お母さんと離れて初めて都に行くんだから、きっと緊張しているのかもしれないな。
金太郎、短い間だったけどありがとう。立派なおサムライさんになって、お母さんにいっぱい親孝行してね。
「おかえりなさい!」
わたしたちが戻ったのに気づいた春姫さんが駆け足でやってきた。
「春姫さん、”本の虫”は?」
「あっちよ!」
春姫さんが指差した先を、それらしき影がよぎる。いた!
「ゆずは、今度こそ捕まえるぞ!」
「うん!」
ついさっき金太郎に言われた言葉が引っかかって、迷人の声を聞いた途端胸がドキッとした。まったく。こんな運動おバカとお幸せになんて、失礼しちゃうわ。
「あっ!」
大声をあげる迷人。
「また逃げられた! 今度はこっちだ!」
迷人が手に取った本の表紙には……『浦島太郎』の文字。また絵本の中?
「ゆずは、追いかけるぞ!」
迷人は単純だからノリノリだけど、さすがにもういい加減にして欲しい。わたしたちが追いかけなくちゃダメ?
「ごめんね。でもあの”本の虫”、ゆずはちゃんが開いた本から出てきたでしょう? ”本の虫”を止められるのはゆずはちゃんだけなの」
「えぇー!」
そんなぁ。わたしはただ本を開いただけなのに。どうしてそんなことに。
「あの本に込められた想いが、ゆずはちゃんの心と共鳴したから”本の虫”が生まれてしまったの。”本の虫”の半分はゆずはちゃんの心から生まれたものだから、ゆずはちゃん以外には止められないのよ」
”本の虫”がわたしの心から生まれた? 心と共鳴? あの本を開いた瞬間、わたしが何かを感じたっていうことなの? でもあまりにも一瞬のできごとだったから、なにがあったかなんて全然思い出せない。
けど……胸の奥でチクリと何かがうずいた。今の、何? あのときわたし、やっぱり何かを見たの?
「行こうぜゆずは!」
「迷人、でも……」
もしあの”本の虫”がわたしの心から生まれたのだとしたら、これ以上迷人を巻き込むわけにはいかないんじゃないかな。
「何言ってんだよ。ゆずは一人で行かせられるわけないだろ。さっさと行って、今度こそ捕まえようぜ」
「……う、うん」
やだなぁ運動おバカって。何や嫌って、こういう歯が浮くようなセリフとさらっと言ってのけるのが嫌。なんだかペースが乱されちゃう気分。
「ゆずはちゃん、今度こそ……」
心配そうな春姫さんに、うなずきを返す。うん。もう逃がさない。あの”本の虫”にわたしが関わっていると知った以上、何が何でも捕まえてやる。
「迷人、行くわよっ!」
「おうっ!」
打ち出の小づちを取り出したわたしは――
ポン!
と次なるおとぎ話の世界へと飛び込んでいったのだった。
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