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 そうは言ったもののスマホが手元にあれば、自分のツイートが気になるミサは二万いいねからちっとも進展のないバズツイートにがっかりした。二万いいねが簡単に達成できたので十万いいねも夢じゃないと思ったのだ。ろくに返信していないのにリプライだけは増えている。まだあの貞子のようなアイコンの人が張り付いていたのでミサは、いい加減テレビ局から取材が来ないかなと苛立つ。 〈丑の刻参りをした人が女だとどうして思うんですか?〉  貞子のようなアイコンの女の変な質問に呆れてしまって、返事も書かず開いたばかりのTwitterを閉じた。丑の刻参りは白装束の女がするものだと決まっている。  カンカンカンッ……!  工事現場で鳴ってもおかしくない高音が甲高く山林を突き抜ける。 「秋人、今日もいるみたいよ」  近所に変人が出たぐらいののほほんとした声でミサは言った。 「待ってくれよ。せめて、ライトトラップを仕掛けるまで待ってくれよ」  秋人の方が慌てていた。ミサもつられて、スマホに収めるためにカメラを起動する。 「急がないと帰っちゃうわ。逃しはしないんだから」  クワガタを採るより、丑の刻参りをする女を撮ることのほうがミサには大事だった。    音が近い。山道を逸れて獣道に入り込む。秋人が不安定な坂道に転びそうになる。ミサは秋人を叱咤し、音のする木の元へ足早に進む。  ミサは釘を打つ音が繰り出される木を見つけ、例のジャージ姿の女を目撃する。 「待って、あのジャージって」    最初見たときは驚きでじっくり見ることができなかったが、今落ち着いてみると見覚えのあるデザインだった。ミサは鳥肌が立つのを感じた――。ミサは状況をつかめない。いや、信じたくなかった。あれは、間違いなく女のはずだった。 「ミサ、どうした。や、やっぱり、やめといたほうがよくないか。向こうに気づかれる!」  髪の長い女がミサと秋人を視界に捉えた。どこか上の空で、ハミングでもしそうな雰囲気の微笑を讃え、うわ言を繰り返している。許さない、許さないと。  ミサは悲鳴を上げる。藁人形を打つ女の容姿はミサにそっくりだったのだ! 長い髪はミサの髪色とよく似ており、毛の一本一本の跳ね方まで酷似しているように思えて来た。  しかし、その女と目が合い、空虚な眼差しに吸い寄せられるように魅入られたミサは……美人とは言えないその女の正体になんとなく気づいてしまった。いや、今まで気づくことができなかったというべきか。  長い髪の女は、長い髪の男だったのかもしれない!  秋人が手を引く。ミサは動揺を抑えきれず、Twitterを開く。バズったツイートのリプライ欄にあいつがいることを確信した。丑の刻参りをするのは女だけだと決めつけていたのが間違いだった!  ミサは怖気づいてTwitterに救いを求める。貞子髪の女のリプライに目を留めた。 〈丑の刻参りをするのは女だけだと決めつけないで下さい〉  貞子のような髪のアイコンの女は……男に見えなくもない。この貞子のような男は、今ミサの目の前で釘を激しく打ち付けている長髪の男だった! 〈僕はあなたを許しません。僕を捨てたあなたを許しません。すぐに別の男のフェロモンに吸い寄せられる虫のように飛んでいくあなたを許しません。惨めな僕の丑の刻参りを拡散したあなたを許しません〉  丑の刻参りが拡散したことで、男はTwitterに現れたのだ。そして、拡散したのが誰であるかも、おそらくは見当がついている……。 〈人に見られてはいけない儀式を、あろうことか拡散したあなたを呪い続けます。今夜も釘を打ちに行きます。もし、それが女に見えたのなら、それは……続く〉    ミサは続きを読んで愕然とする。  カン……。  釘を打つ音が止んだ。丑の刻参りをしている長髪の男が釘を打ち終え、金槌を手にかざして歩んでくる。  ミサは秋人の手を引いて慌てて後ずさる。スマホを取り落とした。その拍子に、指が画面に触れてハヤトとのツーショット写真が映し出される。 「やだ、嘘でしょ!」  はじめて卓球同好会で出会った二人の写真。二人とも黒のジャージ姿だった。 〈続き……ミサに近づきたい思いが僕の姿をミサに変えたんです。ミサ、丑の刻は、人が鬼に変わる時間のことだよ。僕は、僕にとっては鬼だったミサに変わるよ〉
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