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手を繋ぎ、矢神を引っ張るようにしてそのまま移動した。
それと同時に、最初の花火が上がった。辺りに響く大きな音と共に、花火が鮮やかに天を舞う。これでこそ夏という感じだ。
しばらくその場に落ち着き、上がる花火を眺めていた。
だが、気になることがある。それは矢神と繋がった手だ。
すぐに振り払われると思った手は、花火が上がっている間、ずっと矢神と繋がったままだ。
矢神の手は、思っていた以上に華奢で柔らかい。触れている部分が、すごく熱いような気がした。
意識したら急に、胸の鼓動が早くなる。幸せすぎて、どうにかなってしまいそうだった。
手を繋いでいられるのは、遠野としては嬉しいことだ。矢神の方はどう思っているのか。
そっと、様子を窺うように隣に視線を移した。すると、矢神も遠野の方を見てくる。
繋いでいる手のことを言えば、矢神はきっとすぐに手を離すだろう。遠野は、その話題には触れないことにした。
「花火、きれいですね」
「……ああ」
矢神の返事を聞いた後、視線を花火の方に戻した。繋いだ手はそのままだった。
――繋いでいてもいいってことかな。
遠野は、気づかれないようにほっと息を吐く。
花火を一緒に見られただけでもすごいことだ。それなのに、まさか矢神と手を繋いで見られるなんて、想像していなかった。
こんなことは二度と訪れないだろう。この瞬間を大切にしたい。矢神が男の自分の方を振り向くことはないのだから。
――今だけ許してくださいね。
この時間が少しでも長く続くように願わずにはいられなかった。
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