暑い夏の夜に

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「食わねえの?」 「へ?」  急に話しかけられたせいで、おかしな声が出た。 「たこ焼き、熱いうちの方が美味いだろ」 「は、はい」  自分がひどい妄想をしていたことを矢神に知られることはないだろう。だが、申し訳なくて背を向ける。  そして誤魔化すように、冷えたビールをごくごくと喉に流し込んだ。次にたこ焼きを一つ、焦って口の中に入れたら、熱さが口いっぱいに広がって火傷をしそうになる。 「熱っ、はう、はついです」 「慌てて食べるなよ」  背中越しに、可笑しそうに笑う矢神の声が響いた。 「はぁ、熱かった」  熱いたこ焼きを飲み込んで、矢神の方を振り返れば、今度は違う店の方に歩みを進めていた。 「次はリンゴあめだな」 「またですか?」 「何言ってんだ。祭りだぞ。ここでしか食べられないものがたくさんあるんだよ」  乗り気に見えなかったから、祭りなんて好きじゃないのかと思っていた。だが、案外楽しそうで遠野はほっとする。 「あとで射的とかやります?」  どんな反応するのか気になって、そんなことを言ってみた。 「それいいな」  顔を綻ばせる矢神は、まるで少年のような目をしていた。  リンゴあめとイチゴあめをそれぞれ一つずつ買い、次はわたあめのお店へと足を向けた。遠野は矢神の後についていくだけだ。 「わたあめは、絶対に買わないとな」  思いっきり祭りを楽しんでいる矢神が可愛くて、遠野は口元が緩むのを必死で堪えていた。  袋に入ったわたあめを受け取った時の矢神の笑顔は、写真に撮っておきたかったくらいだ。
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