暑い夏の夜に

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 誰もが浮かれる夏休み。補習や部活がある生徒もいるが、みんな楽しそうに笑顔で、普段とは少し違って見えた。  そして、なぜか高校教師である遠野大稀(とおのだいき)も、生徒と一緒になって浮かれていたのである。  その理由は、花火大会デートが近付いてきているからだった。もちろん相手は同居している、同じく高校教師の矢神史人(やがみあやと)だ。夏休み前からひそかに計画していた。そのことを考えれば、顔の筋肉が緩んで仕方がない。  しかし、一つだけ問題がある。それは、遠野はまだ矢神を誘っていなかったのだ。いったいどうする気なのか。  矢神の方は、夏休みに入ってからずっと、新しく担任になるクラスのことで頭がいっぱいのようだった。学校でも、自宅でも、矢神は険しい表情をしていた。生徒に対して真面目で真っ直ぐな人だから、根を詰め過ぎてしまう。  少し力を抜けばいいのに、と遠野は矢神を見ているといつもそう感じていた。  だが、そんな真面目な矢神だからこそ、遠野は好きになったのだ。
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