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 引越し先はすぐに見つかった。初期費用が抑えられて即入居可の部屋がほとんどなかったという事もあり、選択の余地なく決まった。  築年数も古く、ワンルームの小さな部屋ではあったが、バイト先のコンビニからも、いつも練習しているスタジオからも近く、立地条件は良好だ。  引越し費用もなるべく抑えるため、バンドメンバーと、ライブでよく会う仲間に手伝ってもらい、比較的容易に転居は終わった。別れてから二週間で全てが片付いた。その流れからみんなで居酒屋に行くことになった。手伝ってもらったお礼にと、晩御飯代を出すつもりが、逆に傷心のこちらを励ます会になってしまった。  普段の飲酒量が少ない湊にしてはずいぶんと飲んだ。解散した頃には、家に帰るつもりが、彼女の部屋に着いてしまい、部屋の前に来るまでその間違いに気付かない程度には酔いが回っていた。  最後に引越しが終わった報告をしようかとも思い、扉を開けようとした時、中から声が聞こえて、つい耳を澄ました。 「なんで今日は部屋に入れてくれたんだ?」  窓が開いているのだろう、中の声がはっきりと聞こえる。 「えっ。ああ部屋片付けたから。綺麗でしょ」 「なんだ。散らかってたから入れたくなかったんだ。そんなの気にしないのに」 「私が気にするの」  低い男の声と聞き慣れた彼女の声が交互に聞こえて、湊は頭がぐちゃぐちゃになるのを感じた。一気に酔いが覚めて、顔の熱が引いていくのがわかる。 「いつも俺の部屋とかホテルだったから、なんか興奮するな」 「もう」  少しの沈黙が何かを物語っていて、湊は急激に吐き気を催した。 「あっ、待って、窓閉めるの忘れてた」 彼女の声と同時にガラス窓が閉まる音がした。
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