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今日日ノーマル機なんて流行りゃしない。だが仕事なんで、俺は今日もコイツに乗らなきゃならない。最近じゃノーマル機は”歩く棺桶”なんて呼ばれてる。実際その通りで、真横にいた同僚が一瞬でバラバラに吹き飛んだり、海の底に沈んでいくのを、何度も見てきた。
あのなぁ、そもそも俺達の生存状況は、この作戦が成功しようが失敗しようが、関係ねェんだよ。
俺たちゃ使い捨てのボロ雑巾以下の扱いよ。その上、雇われ賃金ははした金ときた!オメぇさんも、騙された口か?
ガレージの横にある簡易休憩所で、今日も新人がベテランのレイヴン達にもみくちゃにされている。
あの新入りも、何日モつかな…
だがしかし、他人の心配ばかりしていられないのが現実だった。
あのベテラン達でさえも、死ぬ時は一瞬なのだ。
もはや俺達レイヴン(傭兵)という生き物に”長生き”等と言う生ぬるい考えは心中に残されていない。
大切なのは、その場を生き抜いて、次の戦いに参加すること。これだけだった。
敵AC、作戦範囲に入った!おい新入り、逃げ腰になるなよ?
…
返事は無い。恐怖で喋れないのか、或いは
おいおい、新型の迎撃兵器のお蔭で大分ガタがキてるみたいだぜ?あの機体、俺達でもヤれちまったりしないか?
無茶だった。いくら低APになっているAC機相手とはいえ、あの”ネクスト機”なのだ。どのような状況でさえ、稼働しているネクスト機との接敵は濃厚な死を意味する。
やめておけ、功を焦って死んだら元も子もない。稼いだ金が無意味になるぞ。
はっ!ならテメぇにくれてやらぁ!おい新人!行くぞ!
っ…おい!待て!味方のネクスト機がもうじきやってくる!それまで
だ か ら 行くんだろうが、手柄ァとられたくないんでねェ!
本当に功を焦る馬鹿がいるか___?
ベテラン一匹と今日参戦した新入りが一匹、かなうはずが無いと思われた戦いは、意外な結果を迎えようとしていた。
ベテラン機が囮となって敵ネクスト機の行動を制限しつつ、新人が駆るノーマル機が遠距離から狙撃する。
一見無謀としか思えなかった突撃行動の裏には、あの新入りが持つポテンシャルが秘められていたのだ。
くっ…ノーマル如きにこのような…しかし、やむを得ん…撤退す
させるかよォ!
囮役に徹していたベテラン機が咄嗟に放つ”鉄塊”の一撃が、PAごと敵ネクストの装甲をブチ破る。
普段の戦いであれば、当てることすら困難を極める鉄塊。だが、こちらに背を向けてしまったネクスト機相手に当たらないはずが無かった。
敵ネクスト、沈黙。
___この奇跡の戦闘結果は、長くは語られなかった。彼らもまた、次の戦いで呆気なく命を落としたからだ。当事者のいない伝説など、与太話として扱われるのが関の山だった。
けれども、俺はこの目で確かに見たんだ。
ノーマルがネクストに勝つ。そんな奇跡を___
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