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 ふう、と息をつく。思い出に蓋をすると、髪をかき上げて真っ青な空を見上げた。その下には、同じような色のプールがあって、プールの水の中では同級生たちがクロールだの平泳ぎだのを一生懸命泳ぎ、そしてタイムを記録している。  瑞穂は一人涼しく、テントの中のベンチに座っていた。教師には、水着を忘れたと嘘をついている。教師は少々驚いたようだったけれど、わかったと頷いてくれた。  まあそりゃあ、先生も驚くよな、と瑞穂は心の中で笑う。学年一の成績を収め、生活態度も飛び切り良い瑞穂が、忘れ物をするんだから。  瑞穂は、手元にあるレポート用紙に目を落とす。  なにを書けばいいんだろうな、と思い、唇の下にシャーペンを当てて考え込んでいると、ふいに用紙に影が落ちた。ハッとして顔を上げる。  目の前に、男子生徒が立っていた。さっきまでプールに入っていたのだろう。海パン姿で、体が濡れていた。 「瀬川(せがわ)さん」  彼は、その顔に穏やかな微笑みを浮かべて言う。 「今日の放課後、なんか予定ある?」  ややあってから、瑞穂は返した。 「特に」 「じゃあ、一緒に帰らない? 俺も今日、部活ないから」 「はあ……? 別に、構わないけど」  全く状況を掴めない瑞穂に、彼は安心したように笑い、礼を言いながらまたプールサイドに戻っていった。
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