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 放課後に誰かと帰るのは、高校に入って初めてなので、わずかに緊張した。 「ああ、瀬川さん、ごめん、待たせちゃって」  自分の席で彼を待っていると、彼はプールの時間と同じ笑みを浮かべ、瑞穂に言う。 「別に」  瑞穂が返すと、彼は苦笑気味に、 「素っ気ないなあ」  と言う。でも、別段怒っている風もない。彼は瑞穂と並んで歩きながら、息を吸って切り出した。 「あのさ、瀬川さん。俺のこと、覚えてる?」 「……覚えてるよ」  少し緊張の幕が張った声で答える。  もちろん、覚えていないはずがない。  そんな瑞穂とは対照的に、彼はその笑みをさらに深めた。 「そっかあ、よかった。じゃあ聞くんだけど、瑞穂」  彼が瑞穂の呼び方を変える。そして、その瞳の奥から鋭い光を出し、瑞穂に向けた。 「今、瑞樹ちゃんはどうしてる?」  この学校での会話で、瑞樹の名前が出ることはない。瑞穂が率先して話さないというのもある。  今自分がいる空間と瑞樹があまりにも結び付かなくて、少し面食らう。 「図書館行かない?」 「いいけど、今日閉まってんじゃないかな」 「前に、椅子があるでしょ。あそこに座って話そう」  それを聞くと、彼は納得したように頷いた。  二人で階段を上がり、図書館の前にいくつか並べられた椅子に座ると、瑞穂は彼を見据えた。 「瑞樹は、あの子はね……」  瑞穂は語りだした。対照的な双子の姉が辿った道を、間違うことのないよう気をつけながら。
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