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 瀬川瑞樹。瑞穂の双子の姉。  小学校中学年までの間、母親から虐待のような扱いを受けていた。学年トップの成績を取り続けているにもかかわらず、勉強を強いられる。過酷な生活により、当時は血色も悪く、栄養失調で倒れることもしばしばだった。  妹である瑞穂は、ほとんど母親からの暴力を受けていない。時々、瑞樹をかばった時だけ、巻き添えを食らう程度。常日頃から虐待のような環境にさらされているわけではなかった。  そして二人は、中学入学を機に、道が分かれる。瑞穂は市立中に、瑞樹は私立中に進んだ。  母は、瑞樹ばかり叱った。瑞穂の成績が悪くても、何も言わない。ただ、その分瑞樹には厳しくて、視力が落ちただけでも夜にベランダに出された。  怖がりな瑞樹は泣いていた。お母さん、入れて。入れてよお母さん入れてよ。お願い。  その必死な声が、瑞穂の耳には焼き付いている。そばで聞いている瑞穂の方が怖かった。何度か母を説得しようと試みたこともあったが、圧倒的な大人の力によってねじ伏せられるのが常だった。  瑞樹は元来、よく笑う少女だった。頭がよくて、器用で、困っている人がいたらすぐにでも助ける正義感をも持ち合わせている。そんな双子の姉のことが、瑞穂はかつて、とても誇らしかった。瑞穂がいじめられれば、瑞樹が飛んでくる。みんな、瑞穂のことは嫌いでも、瑞樹のことは憎めない。瑞樹がだめだと言えば、大人しく降参する。  どんなにいじめられても、瑞樹がいれば大丈夫。そんな瑞穂の気持ちに寄り添うかのように、瑞樹はいつも笑っていた。  大丈夫だよ、瑞穂。私が守ってあげるからね。嫌なことあったらすぐに言ってね。私、必ず瑞穂を助けるから。  約束だよ、と言ったその顔も、とてもかわいかった。瑞樹のような姉がいることは、瑞穂が生きている理由でもあった。  どんな失敗をしたとしても、瑞樹が成功すればそれでいい。瑞穂は怒られないから。それよりも、失敗した瑞樹が叩かれたり殴られたりする方がよっぽど嫌だから。
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