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 事件が起きたのは、中三の冬。そろそろ卒業を迎えようかという時。瑞穂は無事に第一志望の高校に受かり、瑞樹も内部進学をしようという頃に、瀬川家にとって一大事が起きた。  父が交通事故で亡くなり、瑞樹が学校を退学となったのだ。  父の死は、客観的に見るならありふれていた。どこにでもある、平凡な死に方。普通に横断歩道を渡ろうとしたら、飲酒運転のトラックが突っ込んできて、父の他に数人の人も共に亡くなった。  半年ほどかけて葬儀を行うことになり、家の中が慌ただしくなっていた。瑞穂としては、今まで優しく接してきてくれた父がいなくなった喪失感が半端なく、ショックでしばらく学校を休むほどだった。うつ病かもしれないと医者に診断されたが、なんとか学校には行けるようになった。けれど、別に父が戻ってくるわけではない。瑞穂が、その気持ちを封印したまでに過ぎない。その気持ちがどこかに行ったわけではない。父のことを忘れてしまったわけですらない。見て見ぬふりを振りをしているだけ。そうでもしないと立ち直れないから。  瑞樹が退学になったのは、そんな三月の上旬のことだった。  学校にお金を持ち込んで、休み時間に学校を抜け出し、煙草を買った、らしい。由緒正しい瑞樹の学校は、退学処分を下したのだ。瑞穂は、双子の妹であるにも関わらず、詳細を教えられなかった。  母は、今までで一番強く、瑞樹を叱った。それはもちろんのこと口頭の叱責にはとどまらず、瑞樹はまた暴力を受けた。  たとえ短期間といえど、行くところがなくなった瑞樹は、瑞穂のいる市立中に転入することになった。今更入試を行っている高校があるはずもなく、瑞樹は中卒の選択を余儀なくされた。  瑞穂は、自分の生活空間に瑞樹が入ってくることに、たまらないほどの嫌悪感があった。入ってきてほしくない、瑞樹に介入してほしくない。  それでも瑞穂が普通に学校に通えたのは、その時、皇敢太(すめらぎかんた)と付き合っていたからだった。瑞穂は決して派手なタイプではないけれど、その時は彼に交際を申し込まれたので仕方なく、だった。けれど、そんな彼がいることで、瑞穂は救われた。  私と瑞樹は、同じじゃない。  同じ教室にいても、同じ遺伝子を持っていても、すべてを失った瑞樹と敢太のいる瑞穂は、決定的に違う。  安心していた。  
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