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 そして、卒業式の日。瑞穂は敢太に家まで送ってもらったが、その時、ばったり瑞樹と会ってしまった。  気まずい、という思いはしたけど、瑞穂は平静を装い、敢太に手を振った。そして次の瞬間、だ。  瑞樹が、後ろ手に持っていた包丁を握り、敢太に襲い掛かった。  唐突すぎた。  その時の瑞樹は、正気を失っていたのだろうと皆が言った。  敢太! と瑞穂は叫ぶ。わからない、わからない。なぜ瑞樹が包丁を持っているのか、なぜ敢太が標的にされたのか、瑞樹に人殺しになってほしいのか、ほしくないのか。  敢太が振り返る。そして、彼は。  自分に向けられた瑞樹の手を、彼女自身の方に向けさせた。  勢いで、瑞樹はそのまま、自分の腹を刺した。 「あっ……」という短い声が、瑞樹の口から洩れる。苦しくはなさそうだった。 「瑞樹!」  瑞穂は、彼女に駆け寄る。そしてその腹に刺さった包丁を引き抜いた。  瑞樹は、呆然とした顔をしていた。それから、小刻みに震えだした。母に怒られた時と同じように。その姿は、かつて水をかけられた彼女を思い出させる。  瑞樹は叫んだ。敢太に向かって。 「あんたがいたから、あんたがいたから、私と瑞穂は同じになれなかった!  あんたのせいよ。  許さない!」  救急車が来る頃には彼女の意識はもうなく、緊急手術を受けるも、その命がこの世にとどまることはなかった。瑞樹の死は、自殺として発表された。
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