漫才:小説家になろう!

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 A:なりたいものがあってね。  B:なんですか?  A:小説家になろうと思って。  B:簡単にはなれないだろう?  A:そうでもないよ。今はだれでも電子出版が出来るんだよ。  B:そんなに簡単じゃないだろう。お前の小説なんか誰が読むの?  A:だから調べましたよ。  B:何を?  A:どういう小説にニーズがあるのか、とかね。  B:へえ。どんな小説が読まれてるの?  A:まず、ハイファンタジーね。  B:ハイファンタジー?  A:異世界転生とか、異世界転移っていう主人公が別の世界に行くストーリー。  B:別の世界かあ。ロマンがありそうだね。  A:魔法が使えたり、スキルという特別な能力を身につけたりするんだ。  B:カッコいいじゃん。お前はどんな話を書いたの?  A:俺が書いたのは異世界転生ものさ。  B:どんな話?  A:主人公は子供のいない夫婦の間に男の子として生まれるんだ。  B:なるほど。それから?  A:ステータスは普通の人間をはるかに超え、ユニークスキルとして動物と会話が出来る。  B:そういう能力かあ。それで?  A:ある日主人公は人々を苦しめる魔王とその手下を倒すために、家を出るんだ。  B:おお。勇者の旅立ちだ!  A:魔王が住んでいる島に向かう途中、主人公は犬、猿、雉を従魔としてテイムするんだ。  B:え?  A:鬼ヶ島にたどり着いた桃太郎は……。  B:ちょっと待て! 途中から昔話の桃太郎じゃねえか!  A:いや、最初から桃太郎だよ?  B:だって、異世界転生物だって言っただろ?  A:だから、桃に入って転生してるだろうが。  B:桃太郎の舞台は異世界じゃないだろう?  A:どこの地方で桃から赤ん坊が生まれるんだよ? そんなの異世界に決まってるだろ?  B:そう言ったらそうだけど。昔話はダメだよ。違う作品はないの?  A:人間以外のモンスターが主人公っていうジャンルも、流行ってるんだよ。  B:へえー。そんなのもあるの。  A:親をだまし討ちされたモンスターが、ほかのモンスターをたくさん仲間にして仇を討つっていう小説を書いたんだ。  B:面白そうじゃない?  A:モンスターのキャラクターを工夫してね。カニとかハチとかを登場させたんだよ。  B:うん?  A:栗とか臼とか牛の糞とか、普通は動かない物にも命を与えてね?  B:――「猿カニ合戦」だな、それ?  A:えっ? もうそういう話あるの?  B:お前知らないのかよ? みんな知ってるよ?  A:そうか……。じゃあ、実話をベースにしたローファンタジーならいいかな?  B:今度は昔話じゃないのね。どんな話?  A:主人公は芸人なんだけどね。小説家になろうとするんだよ。  B:お前とおんなじだな。それで?  A:そいつは「小説家になろうとする芸人の話」を書こうとしてるんだ。  B:お前とおんなじだな。それで?  A:その小説に出てくる主人公は「小説家になろうとする芸人の話」を書こうとしてるんだ。  B:キリがねえな! 何だその話? いつ書き終わるんだよ?  A:俺に聞かれてもわからないよ。  B:どうして? 自分の作品だろ?  A:いや。俺の話を書いている作家に聞いてくれ。  B:気持ち悪いな! もういい。やめさせてもらうわ。 (おわり)
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